第2章 第一印象は最悪
絶望的に要領の悪いザラであったが、愛嬌だけは人並に外れて持っていた。
誰に対しても気持ちいい程ににこにこと笑う。
人懐こいやつだな、なんて思ったが最後、いつのまにか彼女が心の内側までするりと侵入してきていて、人々は戸惑う。
エルドやオルオからは、ありゃ天性の人たらしだ、などと言われていたが、ザラにはまったくもって身に覚えがなかった。
「でも、きっと上手くやると思うわよ、ハンジ分隊長が上官なら」
『やっぱり?私が言うのもおこがましいけど、ハンジさんとは仲良くなれそうな気がするんだよね』
「ハンジさんはちょっとやそっとの遅刻くらいなら咎めなさそうだしね」
『なんかこう……別の次元にいらっしゃるよね、あの方は。同じ目線、同じ枠組みのなかで世界を見てないんだろうなと思うよ』
「問題は……」
ペトラは周囲を見回し、声を潜めて言った。
「兵長ね」
う、と途端にザラが怯む。
いつもは飄々としているのに、リヴァイがよほど怖いのだろうか、リヴァイのこととなるとザラは言葉なく押し黙った。
「いつもは人からの評価なんて気にしないあなたが珍しいわね」
『ひょ、評価を気にしてるんじゃないよ!ただなんて言うか、出来ることならもうあまりお近付きになりたくないと言うか……』
「ザラがそこまで人を敬遠するなんてねえ…。一体なにがそんなに嫌なの」
『一体なにがそんなに嫌なの!?本気で言ってる!?あらぬ噂を立てられるのが嫌なんだよ!さっき食堂向かってる時、顔がタイプな人がいたんたけど、その人が私を見ながら横にいた人になんて耳打ちしてたか知ってる!?「おい見ろよ、兵長狙いの命知らずな新兵のお出ましだぜ」って言ったのよ?!』
どうやらザラは、平穏を望んでいた調査兵団での人間関係において、思わぬリヴァイとのアクシデントにより、不穏な風が吹き始めたことが心底嫌なようだった。
「いいじゃない、現時点でリヴァイ兵長に顔と名前が一致して覚えられてる新兵なんて、ザラくらいだと思うわよ。ただでさえ普段新兵のことなど気にかけないお方だって聞くもの。いいなあ、ザラ」
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