第6章 そばに
「君たちは何か…大きなすれ違いをしているんじゃないか」
覇気が消え、信じられないほどに弱腰になっているリヴァイを見兼ね、ハンジは言った。
「どうしてそうも想い合ってるのに、そばにいることが出来ないんだ」
「想い合ってる?馬鹿言うな、俺の一方的な…」
「───ザラが」
リヴァイの言葉を遮ってハンジが言った。
強い口調を緩めて、優しげに笑った。
「…ザラがよく、私に聞くんだよ。最近、兵長はどうされてますか。兵長、お元気ですか。お変わりありませんか、…って」
「…は?」
「何をいきなり言い出すんだろう、私に聞くんじゃなくて、リヴァイ本人に聞けばいいじゃないかと返したら、悲しそうに笑って言うんだよ。私がお傍に居たら駄目なんです、って」
私がお傍に居たら駄目、とリヴァイはハンジを通して知ったザラの言葉を胸の内で反芻した。
ザラは俺を気にしているのか。
拒絶したんじゃなかったのか。
答えの見えない疑問がリヴァイの胸中に渦巻いた。
「…人は簡単にすれ違う。しっかり握っていると思っていた手を、何かの拍子に簡単に離してしまうのが人なんだ。人には言葉がある。思い込みなんてナンセンスなことはやめて、……君とザラは、腹を割って話すべきだ」
穏やかな口調でハンジが言う。
ハンジに諭されるのは癪だったが、不思議とその言葉はリヴァイの胸にストンと落ちた。
気が付けば、当たり前のように傍にいた。
言葉にせずとも、相手もわかっているだろうとたかを括っていたことが、俺たちにはありすぎたのかもしれない、とリヴァイは思った。
リヴァイはザラと、二人の想いの答え合わせをした試しがないことにふと気が付いたのだった。
「お互いの誤解を解いて、それでもなお共にいる道を選べなかったら、それはそれで玉砕けっこう。…それでも、後々悔やむ重荷は減るだろ」
「…まあ、な」
「君は人並み外れて不器用なんだから。…あんなに真っ直ぐで、言葉の裏を読んだり駆け引きしたりできないような子相手に、難しいことをするんじゃないよ」
「…意図してやってる覚えはねえがな」
「そういうとこが不器用だって言ってんの!」
ハンジが困ったような嬉しそうな顔でガハハと笑った。
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