第6章 そばに
瞬く間に一ヶ月の月日が流れた。
徐々に怪我の治り始めたザラは出来る範囲で訓練も再開するようになり、他の兵士に遅れを取ることを恐れ曇っていた表情も、だんだんと晴れやかないつものザラのものに戻っていった。
怪我の原因となったザラのワイヤーにアンカーを引っ掛けた張本人、同期の新兵であるパティ・ブラッドローは、兵団屈指の期待の新兵であるザラに怪我をさせたことを心から悔いていたようで、傍にザラを見つけては、何かと世話を焼いて謝罪の念を伝えようとした。
ザラはパティに気を病むようなことではないと再三言ったが、それでもパティは聞かず、結局一ヶ月の間、ザラは何をするにもパティの手を借りたし、配膳の際にはそれがいいのかどうか、ザラの皿にだけ他の兵士よりも多く食料を盛ったりなどした。
おかげで随分とパティとは仲が良くなったし、ザラと同じく人懐っこい性分からか、階級を問わず親しい者の多かったパティを通じて、ザラにも自然と親しく話のできる間柄の者が増えた。
様々な兵士と親しげに話しては、ザラはよく笑った。
相手の話を興味津々といった風に相槌を打ちながら聞き、時には腹を抱えて笑い、時には感情移入のあまり思わず涙を零したりした。
相手が見ていて気持ちの良いほど笑うザラの周りには、自然とザラとの関係を望む者が集まり、そんな様子を見かけてはペトラが「今頃ザラの良さに気付いてなによ、私なんて、三年も前からずーっと知ってるんだから!」と夜部屋で二人きりになった時に拗ねたりもした。
リヴァイとの関係は、例の日を境に途絶えたままだった。
すれ違えば挨拶をする。
調子を問われれば手短に答える。
立体機動の助言は素直に聞き入れたし、リヴァイの執務室掃除にあてられた時は今までと同様、どの幹部の執務室よりも入念に掃除をした。
それだけだった。
話すことも訓練をつけてもらうこともあったが、ただ、それだけだった。
当たり前のように傍に居た人が、傍にあった魂が、そんな日々が幻であったかのように遥か彼方へと遠ざかった。
リヴァイが今何を考え、自分のことをどう思っているのか、ザラにはもう全くわからなかった。
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