第6章 そばに
涙が止まらない。
ぐいと手の甲で目元を拭った時、はたと視線を上げると、ベッドの中からこちらを見つめるリヴァイの瞳とぶつかった。
ザラは驚いて目を瞬いた。
その瞬きの間にも、涙がぼろぼろとこぼれていった。
「…ザラ?」
不安を孕んだ声で、リヴァイが小さく呼んだ。
眠る時、確かに抱き締めた温もりが腕のなかにないので起きて探してみると、彼女は悲しそうな顔をして泣いていた。
目が合ったあとも涙は止まらず、おびただしく頬を濡らしていた。
突如、鈍器で後頭部をガアンと殴られたような衝撃がリヴァイを襲った。
俺は昨日、ザラの何を見ていた、とリヴァイは自問した。
痛々しいまでに泣かせるほど、傷付けた。
昨夜、ザラは何も言わなかった。
抵抗する素振りも見せなかった。
その中で無理をさせて、こんなにも傷付けたのだとリヴァイは胸に重く受け止めた。
「───悪かった、ザラ。俺は…」
『…あの!』
話そうとするリヴァイの声をザラは強く遮った。
どくどくと鼓動が早まって耳にまでその音が聞こえるようにザラは思った。
目眩がした。
力を込めて立ちあがらないと、その場にしゃがみ込んでしまいそうだった。
『…謝らないでください。わかってますから。昨夜のことは、私、忘れます。だから兵長も、忘れてください』
リヴァイは何も言えなかった。
ぼろぼろと涙が止まらぬままに、ザラは懸命に笑った。
『私、大丈夫です。今までと変わらず接しますから。だから…だから、』
笑顔が保てず、ザラは顔を俯けた。
大粒の涙が、頬を伝わず床へぱたぱたと落ちていった。
『兵長がもしよろしいなら、これからも部下としてそばに置いてください』
言って、ザラは頭を下げた。
リヴァイの方は見ず、そのまま部屋を出て行った。
リヴァイは引き止められなかった。
ザラの言葉を、頭の中で何度も何度も反芻した。
俺は何を、と思った。
身勝手に引き寄せ、彼女の気持ちも確かめず欲望のままに抱いて、傷付けた。
リヴァイは苦しげに息を吐きながら手で目元を覆った。
きっと二人の想いは同じであるなどと勝手に思い込んでいた。
取り返しのつかないことをしたとリヴァイは思った。
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