第6章 そばに
ふと、糸が手繰り寄せられるようにして目が覚めた。
鼻先に触れるしんと静まり返った冷たい朝の空気の中、ザラはしばらくの間、呆然としていた。
一糸纏わぬ姿のまま、抱きしめられている。
ゆっくりと視線を上げると、リヴァイの寝顔が目に入った。
穏やかな表情だった。
幾らか幼く見える寝顔をじっと見つめ、きっともう落ち着いたであろうとザラは胸を撫で下ろした。
昨夜、壁外調査から帰ったリヴァイは、感情が昂ぶるままに荒々しくザラを抱いたのだった。
眠りから覚め、昨夜のことを思い出し、始めは何かの夢かと疑ったザラだったが、下半身に残る気怠い悦びがこの記憶は現実に起こったことであると物語っていた。
どうしようか、とザラは思った。
これから、どんな顔をしてリヴァイと会い、接すればよいのだろう。
昨夜、会話らしい会話はなかった。
熱い吐息に混じって時折名前を呼ばれるだけで、それ以外は皆無であった。
リヴァイの心中がわからない。
(ああ…思考が、嫌な方へと行ってしまう)
何を思いあがっている、と頭の中で、もう一人の自分が厳しく言った。
壁外からお帰りになって、兵長はまともな状態ではなかった。
その昂った感情のはけ口にされたのがお前だ。
あのような状態になった時、たまたまお前がそばにいただけだ。
兵長のなかで昨日の夜のことは何の意味も持たぬし、また、お前にとってもそうだ。
胸中が、黒々としたもので覆われていく。
反論されまいと必死に言い立てる自分の声が、頭の中で何度もこだまして響いた。
リヴァイに実際に言われた訳ではない。
ただ本当にそうだった場合、……そんなことをリヴァイから告げられた場合、きっと心は、容易く折れてしまうだろうとザラは思った。
(はは…兵長に言われた時に心が傷つかないよう、先に回って自分に言い聞かせてるのか)
自分の深層心理を分析して、ザラは思わず笑ってしまった。
声を立てないよう肩を震わせて笑って、笑って、……ひとしきり笑ったあとに、涙が溢れた。
我慢して止められるような涙ではなかったので、ザラは急いでベッドから抜け出すと、素早く床に散らばった衣服を纏った。
急いで身に付けたので多少服装は乱れていたが言ってられる場合ではなかった。