第6章 そばに
リヴァイはザラの待つ自室へと足早に向かっていた。
心身ともに疲弊していた。
平然を装った表情の下で、感情が昂っているのを認めざるを得なかった。
壁外調査のあとは大抵いつもこうだった。
巨人との対峙、仲間の断末魔、そして、暗く冷たい死、巨人の肉を裂く感覚、真っ向から浴びる生暖かくどろりとした血の感触───
心拍数が跳ね上がり身体全身が一つの心臓となって脈を打っているような、壁の外で味わう異様な感覚が、壁外から戻った彼を、いつもそうして体内から静かに燃やした。
早くザラのそばへ寄り、小柄な身を引き寄せて、胸の中へ収めたいと思った。
この昂りを抑える手立ては、もうザラしかないと本気で思った。
彼女の匂いを、温もりを、全てを包み込む穏やかな笑みを感じないことには、この昂りは収まらぬと本気で思ったのだった。
声もかけずにおもむろに部屋の扉を開くと、窓辺で外を眺めるザラの後ろ姿が目に入った。
ああ、とリヴァイは低く呻いた。
チリ、と胸の奥底で、何か小さな火種が灯った気がした。
小さな背中へ向かって手を伸ばす。
ザラが振り返るより早く、リヴァイはザラの体を後ろから胸の中へと掻き抱いた。
腕の中でザラが息を詰めるのがわかったが、それも気にせず抱き締める腕に力を込め、そのままザラの温かな首へと顔を埋めた。
ザラの匂いが、ゆっくりと胸を満たしていく。
何も言わないリヴァイに戸惑ったのか、ザラが躊躇いがちに兵長、と小さく呟いた。
ザラの指先が、リヴァイの腕にそっと触れる。
『───…リヴァイ兵長』
穏やかな優しい声が、とんとリヴァイの胸に落ち、例の火種によって燃やされた。
それが引き金となった。
灯った時はごく小さかった火種は瞬く間に業火となった。
内側から身を焼かれる感覚をリヴァイは確かに味わった。
胸に抱いていたザラの肩を掴んで勢いよく振り向かせると、そのまま噛み付くように口付けた。
今度こそザラが息を飲んだ。
だがもう止められない。
あちいな、ともう一人の自分が頭の片隅で小さく呟いた。
それが最後だった。
リヴァイは衝動に突き動かされ、乱暴に唇を重ねたのだった。
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