第6章 そばに
『ご無理はなさらないでくださいね。それでは…』
そのままその場を後にしようとしたザラを、ふとリヴァイが呼び止めた。
ザラが何かと足を止めると、リヴァイは黙って、リヴァイの自室の方角を目配せした。
「今日は遅くなるかもしれん。…が、待っててくれるか」
『そんな…お邪魔できません。ただでさえ疲れてらっしゃるのに。私は大丈夫ですから、今日はゆっくり、お休みになってください兵長』
疲労困憊のリヴァイに心配をかけてしまうほど心細げな顔をしていたのだろうかとザラは自分自身を戒めた。
これ以上はリヴァイにも、ペトラにも、ハンジにも迷惑はかけられない…などと、あれこれ思い巡らせていたザラの胸中を見抜いてか、リヴァイは小さく微笑んだ。
「馬鹿、お前の心配をしてるんじゃねえ。俺が駄目なんだ」
『え?』
言葉の真意を汲み取れず、ザラは何度か目を瞬かせた。
「俺がお前と居たいから言ってる。…駄目か」
駄目なわけがない。
リヴァイと共に居たいのは、言われずともザラも同じだった。
眉を下げて笑うリヴァイに、ザラは慌てて顔をぶんぶん横に振った。
リヴァイは満足そうに頷くと、最後にもう一度ザラの頭を撫で、一つ笑みを残して離れていった。
離れていくリヴァイの背中を見つめ、ザラはぼんやりと、いいのだろうかと思った。
リヴァイの存在に甘えている。
こんなにも都合よく、寄り掛からせてもらって本当にいいのだろうかと思わずにはいられなかった。
(けれど…兵長も望んでくれている)
ならば、それでいいではないかと心の中で別の誰かが言った。
喉から手が出る程にリヴァイを切望し、また、リヴァイも望んでくれている。
二人の関係が明確な約束のもとに成り立っているものではないとしても、ならば終わりが来るまでは、リヴァイのそばにいようとザラは思った。
ずきりと、胸に痛みが走った。
あまりにも鈍く重い痛みだったので、思わずザラは手で胸を押さえて顔をしかめた。
痛んだ胸に、じわじわと黒いわだかまりが出来ていく。
リヴァイのことを考えると、最近はそうして胸が痛むのだった。
(…兵長は…)
私のものじゃない、とザラは思った。
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