第6章 そばに
どのくらいそうして上の空にリヴァイの背中を見つめていたかわからないが、ある瞬間、唐突にリヴァイが振り向いたのでザラはどきりとして目を見開いた。
「…よう」
リヴァイが口を開いた。
ザラにはリヴァイがそう言ったような気がしたが、あまりに遠くにいるので、本当にそう言ったのかは定かではなかった。
二人の視線が重なる。
リヴァイが、ふ、と微笑んだ。
ザラは何も言うことができなかった。
ただ、心の奥底に、じわじわと温かい何かが広がる感覚だけが胸を満たしていた。
リヴァイはしばらくの間、ザラがしているように黙ってザラの目を見つめていたが、やがて何か思い立ったかのように瞬きをすると、ゆっくりとザラの方へと歩み寄った。
二人の距離が徐々に近付き、ザラは思わず視線に耐えられなくなって顔を地面へと俯けた。
リヴァイはザラのすぐ目の前まで来て立ち止まった。
リヴァイから血生臭い、独特の匂いが立ちのぼりザラの鼻腔を刺激した。
ああ、とザラは思った。
アーヴィンに別れを告げたときに嗅いだ匂いと同じだった。
巨人の血と、死の匂いだった。
ふいに大切な人との別れを思い出し表情を暗くしたザラをわかってか否か、リヴァイは唐突に思いつくと、ザラの顔のすぐ目の前へ手を突き出した。
人の眼前に差し出すにはいささか速すぎる速度でリヴァイの手が近付いたので、ザラは思わず驚いて固く目を閉じ、やがて衝撃の類のものが何も来ないとわかると、恐る恐る目を開けて前を見た。
「何本だ」
唐突に、リヴァイが問うた。
人差し指と、中指と薬指。
いつの日かの二人のやりとりと同じく、三本の指を空へ向かって突き立てたリヴァイが、ザラを見つめて答えを待った。
『え…あ…』
いつの日かと同じく、呆気にとられてザラは戸惑い半分に口を開いた。
小さな声で、三、と答えた。
「…フン」
リヴァイは満足げに笑って、ザラの頭に手を置いた。
そのまま、その存在を確かめるように、ザラの髪が乱れるのも構わずザラの頭を撫でた。
「なんだ、思ってるよかしっかりしてるみてえじゃねえか」
『いや…えっと…な、何なんです、突然』
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