第5章 隣の温もり
リヴァイの腕が背中へ回った。
あ、と思った時にはもうリヴァイの腕の中にいた。
ザラはきつく目を閉じて、同じようにリヴァイの背中へと腕を回し、ぎゅうと強く抱きしめた。
ふ、とリヴァイが笑う。
「…こんなに行きたくねえと思う壁外調査は初めてだ」
リヴァイの細い指がザラの前髪をかき分け、あらわになった額に優しく口付けが落とされた。
「行ってくる」
『…お引き止めして、すみませんでした』
ザラは顔を上げて微笑んだ。
涙に濡れた頬のまま、一生懸命に笑顔を作った。
『お帰りになるのを心待ちにしています。…いってらっしゃい。どうか、お気をつけて…』
リヴァイの背中を見送り、ザラはしばらくの間茫然とそこへ立ち尽くしていたが、やがてぐいと頬の涙を拭うと、自分の頬を強い力で三度叩いた。
弱気になった気持ちを奮い立たせようと強く視線を上げた。
足を踏み出す。
去っていったリヴァイの背中を思い出し、前へ前へと歩き始める。
躊躇しない。振り返らない。
(…兵長のような人間になりたい)
涙を堪えて、ザラは思った。
自分の決断を信じ、騒がず、焦らず、目の前のことを受け入れ、いついかなる時も強く、自由の翼の象徴となれるような人に。
胸の奥底に灯った小さな火種が、じりじりと身を炙り始めるのをザラは感じた。
もっと大きくなれと思う。
この火種がいつしか、業火となり身を焼き、それが戦う原動力になればいいと願う。
踏み出す足に力がこもった。
強くなりたいと心から願った。
胸に様々な想いを抱え、ザラは兵舎の長い廊下を、強い足取りで進んでいった。
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