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【リヴァイ】君がため

第5章 隣の温もり



調査兵団宿舎を異様な空気が満たした夜が明け、壁外調査に兵団が発つその日の朝、ザラは微かな物音で眠りから覚めた。

目は閉じたまま、無意識に隣の温もりを手で探ると、つい今しがたまで居たのであろうその人は、もうそこには居なかった。
きりきりと胸が痛むのが、起き抜けのぼんやりとした頭でもわかった。
ゆっくりと目を開け、身を起こす。

気が付いたリヴァイはザラを一瞥し、また手元のクラバットへと目を戻した。
リヴァイが首元にクラバットを巻く様子を、ザラは黙って見つめていた。
ブーツを履き、ベルトを締め、ジャケットを着、最後にリヴァイは肩から外套を羽織ると、ゆっくりと、しかしまっすぐに、ザラを見つめ返した。

朝日の差し込む部屋の中で、この世のものとは思えぬほど、美しいものを見たとザラは思った。

洗練された、高尚な魂。
それをその身に宿した人が、こちらをじっと見つめ返している。
気を抜くと、涙が溢れてしまいそうだとザラは思った。
何故泣きそうになるのだろう。
ザラには、わからなかった。

しばらくの間、朝日の中で二人は黙って互いを見つめていた。
音のない空間で、光にあてられたリヴァイの艶やかな黒髪は輝いて見えた。

先に沈黙を破ったのは、リヴァイの方である。


「約束は守ろう。……必ず戻る」


そうとだけ小さく言うと、リヴァイは外套を翻し、部屋を出ていった。



ザラは目を閉じた。
リヴァイの足音が響いて聞こえた。
迷いのない足取りだった。


(…きっとあの人は…)

後ろなど振り返らず、肩で風を切り、勇ましく戦地へ向かうのだろう。

足音が遠ざかる。

だんだんと音が小さくなり───完全に聞こえなくなった時、ザラは唐突に弾かれたように立ち上がり、部屋の外へと転がり出た。


『…リヴァイ兵長!』


遠くに見える背中へ向かって声の限り叫んだ。
リヴァイが驚いて振り返る。

止めてしまった、とザラは思った。
あの人の歩みを止めてしまった。
勇ましい足取りを止めてしまった。
それでも、触れたい。

もう一度だけ、あの人に触れたい。


裸足であることも厭わず、冷たい床をザラは走った。
思わずリヴァイが目を見開く。

「馬鹿、走るな……っ!」


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