第5章 隣の温もり
ザラはリヴァイの胸へ額をつけると、そのまま擦り寄るようにぐりぐりと顔を横へ何度か振った。
リヴァイの匂いがゆっくりと胸を満たしていく。
不思議だ、とザラは思った。
いつの間に、彼の匂いでこんなにも落ち着くように自分はなったのだろう。
「ふ、くすぐってえ」
『…私、嫌いじゃないです、兵長の匂い』
額を擦り付けるのをやめたところで、小さくザラが言った。
「…なんだ、その言い回し」
ザラの思惑がわかったらしいリヴァイは、薄く笑って言葉を返すのだった。
「はっきり好きだと言ったらどうだ」
ほんの少し、自身の心拍数が上がったようにザラは感じた。
照れ臭いような、くすぐったいような気持ちになりながら、それでもそれを悟られぬよう平然を装いながら言う。
『…ふーん、兵長、そう言われたいんですね』
「ああ」
『…っ!』
顔が見えずとも、楽しそうにくつくつとリヴァイが笑っていることが気配でわかる。
やられた、とザラは思った。
さっきの仕返しをしようと思ったものの、まんまと一本取られてしまった。
顔に熱が集まるのを感じる。
そのまま何も言えずに押し黙っていると、フン、とリヴァイが鼻を鳴らした。
「…いくじなし」
『へ…兵長だって、言ってなかったじゃないですか!』
「そうだったか?俺は好きだぜ」
『な…!』
しどろもどろになって、ザラが続ける。
『なに、が、』
「…さあ?」
肝心なところでまたはぐらかされてしまった。
完全に手の上で転がされている自覚があったが、これ以上あれこれ言って墓穴を掘ることだけはやめようとザラは気を改め、ぎゅっと目を瞑ると、リヴァイの背中へ回した腕に力を込めた。
リヴァイもこれ以上はからかうのをやめようと思ったのか、一つ笑うと、最後に優しくザラの頭を撫で、おやすみと言った。
胸中では、ずるい人、とリヴァイのことを罵りつつも、ザラも口ではおやすみなさいと小さく返した。
怖い人。
怖くて、厳しくて、優しくて、──ずるい人。
自分でも気づかぬ間に思っていた以上に、リヴァイという人間に惹きつけられているようだった。
悔しいなどと思いながら、ザラも静かに、その人の腕の中で深い眠りに誘われていった。
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