第5章 隣の温もり
「薬なんて、もうとっくの昔に飲ん……おい待て」
どうやらザラの言う意味がわかったらしく、リヴァイは額に手を当てると、深くため息をついた。
『え、あの…?』
ベッドから半身を起こしながら、リヴァイの様子を伺っていたザラが見兼ねて声をかけると、リヴァイは黙って窓を指さした。
リヴァイの指の先を追って窓へと視線を移したザラは、そこにある窓の外の景色が一瞬理解できず、口を開けたまま固まった。
「…覚えてねえのか。俺が持ってきた薬飲んで、丸一日眠りこけてたんだぞ」
『丸一、日……え!? じゃあ今、夜なんですかこれ!?体感だと三十分くらいでしたが!?』
「知るかバカ。声掛けても全く反応しねえし、終いにはウンウン魘されてたぞお前。よっぽど悪い夢でも見てたのか」
『や、全く…何も覚えてません』
「俺から薬受け取ったのは?にこにこ笑って礼言ってたぞ」
『い、や……記憶にないです、ね…』
言われることの全てに覚えがないので、ザラは薄気味悪くさえ思った。
よほど熱が高く意識が朦朧としていたのか、食堂を出たあとから今までの記憶がすっぽり抜けてしまっているようだった。
「…今、熱は」
リヴァイが手を伸ばし、ザラの前髪をかき分けて額に触れる。
『もう、随分楽です。たぶん下がったと思います』
「そうだな。さほど熱くない」
額に触れていた手が頬の輪郭をなぞり、首へと落とされる。
リヴァイの手は冷たく、ザラは思わず首を竦めた。
「よほど無理してたのか」
『え?』
ザラが視線を上げると、リヴァイは穏やかな表情をしていた。
「熱が出るまで頑張る馬鹿なんざ、俺ぁ初めて見たな」
『えぇ…面と向かっていきなりめちゃくちゃ悪口言うじゃないですか…』
若干たじろぎつつ言うと、リヴァイが可笑しそうに笑うので、ザラは頬を膨らませてつんとそっぽを向いた。
「おい、拗ねるなよ。別に嫌いじゃねえぞ、そういうとこ」
『嫌いじゃ、ない?何ですか、その言い回し!はっきり好きっておっしゃったらどうなんです?』
「ふーん、そう言われてえのか」
『だっ…そんな事は言ってないです!』
顔を赤くしてザラが反論する。
揚げ足をとろうとしてもいつも一枚上手なのはリヴァイの方だった。
.