第5章 隣の温もり
目が覚めた時、ザラは自分が今どこにいるのかすぐに理解することが出来なかった。
自分の部屋ではないが、見覚えのある天井がぼんやりと視界に映り込む。
しばらくの間そうして呆然と見つめた後、ああ、兵長のお部屋だ、と胸中で呟いた。
「目が覚めたか」
不意に声をかけられ瞳だけを声の方向へと動かすと、リヴァイがこちらへ歩み寄ってくるところだった。
ベッドの脇まで来たリヴァイが唐突にザラの顔のすぐ目の前に自身の手を差し出す。
人差し指と中指と薬指の三本を立て、ずいと目の前に突き出すので、ザラは一体何事かと目を瞬かせた。
「何本だ」
『えっ』
我ながら間抜けな声が漏れたとザラは思ったが、突然奇妙な行動に出たのはリヴァイである。仕方ないだろう。
至って真剣な様子のリヴァイの行動の意図が汲み取れず、起き抜けのぼんやりとした頭を必死に働かせようとするも、やはり意味がわからない。
ザラが黙り込んでいると、リヴァイは痺れを切らしたように更に手を前へと突き出した。
ほとんどザラの鼻先に手がくっつくような状態である。
「何、本、だ」
『あっ、えっ…? さ、三…?』
あまりにも急かされるので、戸惑いつつもザラが答えると、リヴァイは満足したようにフンと鼻を鳴らし、ようやく手を引っ込めた。
『あ、今のでいいんですか…?』
「見えてんなら早く答えやがれ。まだ熱に魘されてるのかと思ったじゃねえか」
『熱…ああ、熱!』
唐突に頭の中のもやが晴れ、ザラはぱちりと目を見開いた。
食堂でリヴァイに熱があることを見破られ、薬を持っていくから部屋にいろと言われたのだった。
『そうでしたそうでした!すみませんいつの間にか寝ちゃってたみたいで…薬ありがとうございます、持ってきてくださったんですよね』
頭をかきつつ、ザラが手を差し出すと、今度はリヴァイがぱちりと目を見開いた。
じっとザラを見つめたあと、訝しげに眉をひそめる。
「あ…?なんだ、その手は」
『え?や、だから、お薬』
「………」
『…え、何ですか、この空気』
「お前一体、何時間前の話をしてるんだ」
リヴァイはおもむろに一歩退くと、うんざりとした様子で顔をしかめた。
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