第5章 隣の温もり
それから更に二日が経った日の朝、食堂にて配膳の列に並んだ際、リヴァイはふとすぐそばにザラがいることに気が付いた。
後ろからザラの肩を叩くと、気が付いたザラがゆっくりと振り向いた。
『あ…兵長。おはようございます』
「ああ。怪我の具合はどうだ」
『うーん…ぼちぼちですかね。特に、良くなってる気はしません』
会話する二人の間に挟まれていた兵士が、気を利かせてリヴァイと並ぶ順番を交代してくれる。
リヴァイは小さく礼を言い、改めてザラのそばに寄ると、普段よりもどこかぼんやりとした様子のザラをまじまじと見つめた。
「…お前」
『はい』
「…熱か?」
『…!』
驚いたように目を丸くして、ザラはリヴァイの顔を見つめた。
しばらくの間そうして黙って見つめていたが、やがてへにゃりとだらしなく笑う。
『…もー、嫌だなあ。…なんで、わかるんです』
「当たってるのかよ」
『どういう能力なんですか。なんで、こう、何でもお見通しなんです』
「知るか。いつもに増して気の抜けた顔してやがったからそうかと疑っただけだ」
リヴァイが言うと、ザラは観念したようにため息をついた。
少女のように大きな艶々とした目が、いつもよりわずかに熱っぽく潤んでいる。
気にして見てみると、顔も心なしかいつもより赤いようだった。
「…怪我を治すことが仕事のお前が無茶してどうする。その気概は買うが、優先すべきことを間違えるな」
言いながら、結局俺が諭す羽目になったとリヴァイは胸中で小さく思った。
エルドとペトラの姿を探すも今日に限って二人とも近くに見当たらない。
ザラは唇を噛み締めて顔を俯けた。
本人とて、きっとわかっているのだろう。
わかった上で、ムキになって無理を続けてきたに違いない。
リヴァイは小さくため息をつくと、ザラの頭に手を乗せた。
あれこれ言ってやりたいと思っていたが、十分反省している様子のザラをこれ以上責める気にはなれなかった。
頭に乗せた手に力を込めて小さく引き寄せる。
「…薬を持ってく。俺の部屋にいろ」
耳元から口を離すと、俯いたままザラは小さく頷いた。
顔を近づけてみてわかったが、熱は随分高いようだった。
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