第5章 隣の温もり
リヴァイは黙って小さく頷いて、エルドから目線を外すと、作戦会議室へと向かうザラの小さな背中を見やった。
「人に言われて、はいわかりましたってすんなり了承するたまでもねえだろ。んな物分かりのいい奴だったら、今日は働いてなんぞいねえだろうさ」
言われて、エルドもペトラも何も言い返せなかった。
一見誰にでも素直で聞き分けのいいザラであるが、柔らかな性格の中に、時折垣間見える芯の強さのようなものが彼女にはあった。
おまけに、精神の根底に宿る芯の強さと、年端のいかぬ子どものような頑固さが表裏一体となって彼女の中には混在しているようである。
一度決めたことは余程のことがない限りザラは諦めようとしない。
リヴァイの言うようにペトラが再三忠告したからといって、大人しく部屋に戻るザラでもないだろう。
「あれでいて相当落ち込んでるみてえだからな。鼻息荒くして元気に振る舞うのは結構だが、ああいう奴は一度痛い目を見て、もっと客観的に兵団にとっての自分の存在意義を見つめ直した方がいい」
「…では、当分は、あのまま放っておけと」
「あんだけ無茶してりゃすぐにガタがくるだろ。そしたらお前らが優しい言葉でも掛けながら、奴にとっての最善は何か教えてやれ。今あいつに何を言っても余計躍起になって空回りするだけだろうな」
鋭いことを言うお人だ、とペトラは胸中で呟いた。
まったくもって、リヴァイの言う通りであると思った。
「…ザラのこと、よくわかってらっしゃるんですね、兵長」
ぽつりと、心の声がうっかり外へと漏れ出したといった様子でペトラが小さく呟いたが、言ってから、思っていたよりも数段低い声が出たことにペトラは自分自身で驚いた。
自分の方がザラとは長い付き合いであるし、彼女のことであれば何でもわかっている気になっていたのに、つい最近、ザラの人生にふらりと現れたこの人が、こんなにもあの子を理解した風に物を言うことに、若干の嫉妬の念が混じったようだった。
そんなペトラの胸中も全てお見通しだと言うようにリヴァイは、ふっと小さく笑った。
「…さあ、あくまで憶測だ。何にせよ、上官の俺よりもお前達の声の方が奴には響くだろう。…頼んだぞ」
薄く笑ったまま小さく言い残して、リヴァイは踵を返して去っていった。
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