第2章 冬の雨
「ご、ごめんなさい!!!忘れ物をしてしまって…!!」
女はリヴァイと目が合うと、慌てて浴室へと戻る。
ーバタンッー
女はいきなりの出来事にドキドキと胸が暴走しだし、息を上げながら浴室のタイルにペタンと尻をついてしまった。
勢いよく出ているシャワーが容赦なく女の頭にかかる。
「…………」
女は自身の胸元と両腕を見た。
これを……見られただろうか……
不安が込み上げてきたが、このまま浴室から出てこなければ、今度は心配して様子を見に来るだろう。
女は心の中でため息をつくと、手早くトリートメントを終わらせ浴室を出た。
ードサッー
「………………」
リヴァイはリビングのソファに腰掛けると、今しがた目に飛び込んできた映像を頭の中で巻き戻し再生をする。
忘れ物をしたと言った女は手に何か持っていた。
きっと、風呂場で使う物を取りたかったのだろう。
しかし、リヴァイが見たものは女の裸だけでは無かった。
無数の痣……
浴室から出ていた上半身だけでもかなりの痣が見えた。それは見ようとしなくても見えてしまう程に目立つモノだった。
それに、コンビニの袋を掴んでいた女の左腕についていた傷跡。
あれは明らかにリストカットの傷跡だ。
しかもその傷跡は横ではなく、手首から肘にかけて縦についていた。
リストカットと言えば、衝動的に手首を横に切ってしまうのが一般的だ。
しかし、衝動的に手首を横に切ったところで死ぬことなど滅多にない。
本気で死にたければ太い血管に沿って縦に切る。
意外にも知られていない事実だ。
あの傷跡から推測すると、女は過去に少なくても一度は“本気で”死ぬ気だった事がある。あれ程までに目立つ傷跡。躊躇い無く相当深く切った筈だ。
身体の痣に自殺未遂の跡。
リヴァイはとんでもないモノを拾ってしまったとため息をついたが、何故か心のどこかで“これでよかったのだ”という想いが自身に言い聞かせるように全身をめぐる。
「………チッ…」
その想いの正体が分からず思わず舌打ちをすると、女がリビングに入ってきた。