第3章 揺れる記憶
リヴァイはを抱き寄せながら思う。
は本当に不思議な女だと。
真っ黒で大きな瞳。
“四月一日”という変わった名字の日付。
エルヴィンが言った“貴婦人”という気色の悪い呼び方。
なんだか妙に落ち着くこの香り。
とは本当にあの雨の日に会ったのが初めてなのだろうか。
以前に…会って会話をしたなんて事は、本当にないのだろうか。
リヴァイはまだ30代前半。
物忘れをする年代ではない。
そんなリヴァイの過去の記憶に、と出会った映像がないのであればそれが事実だ。
しかし、リヴァイはまだ若くて健全な自身の記憶でさえ疑いたくなる程の違和感を覚えてしまい眉間のシワは深くなるばかりだ。
「あ…あの…リヴァイ…さん?」
「…っ!!悪かった……」
だが、が困ったように名を呼ぶと、リヴァイはハッと我に返る。小さなため息をついて距離を取ると、リヴァイは今日エルヴィンと話した事を報告した。
「変な事を聞いて悪かったな…だが、今日1日気がきじゃなかったのは本当だ。このマンションはオートロックではない。暴力男が宅配業者を装って訪ねてきても不思議じゃないからな」
「…………」
「だから、明日から俺と一緒にオフィスに来い」
「え?リヴァイさんのオフィスに…ですか?」
「そうだ。オフィスなら、だいたい俺かエルヴィンがいる。エルヴィンの人格は褒められたモンではないが、ここにいるよりはマシだ」
「でも…そんなの…ご迷惑では…」
「迷惑じゃねぇから提案してんだ。あんなヤツだがボディーガードには十分だ。その点に関しては信用していい…だから…明日から一緒に来てくれ…」
一度から距離をとったリヴァイだったが、気づけばの両手を強く握っていた。