第1章 秋の散歩【エルヴィン】
「エルヴィン団長のお気に入りの場所ですか?」
「そんなところだ」
リラックスしているのだろう、鎧のような強さをもった美しい顔も今は柔らかい。
「この散歩は気分転換ですか?」
今なら少しだけ団長の心に踏み込める気がした。
「そうだな、自分への誕生日プレゼントといった所かな」
私は知っている、今日は団長のお誕生日だって。
「お誕生日おめでとうございます、エルヴィン団長」
毎年、伝えたいと思いつつ伝えられなかった。今年こそはと思っても、私がそんな事を直接言っていいものか迷ってしまうのだ。
私はただの兵士、それだけの存在だから。でも、やっと言えた。
「ありがとう。もう喜ぶ歳でもないがね」
「プレゼントとか・・」
言った所で後悔した。私から団長にプレゼント?出過ぎた行為ではないか。
慌てて言い直そうとする私の頭上に、大きな手が触れた。
「今きみに私の我儘に付き合ってもらっている。それで十分だろう?」
「我儘なんてそんな・・」
私はずっと貴方の横を歩きたかった・・。我儘なんかじゃない、私にとっては最高に幸せな時間です、と届かぬ気持ちを心の中で呟く。
「誕生日だから・・、君と2人きりで歩きたいと思ってね」
私の心の声が通じてしまったのだろうか。それとも、神様がずっと恋心を抱いている私を哀れに思って魔法をかけてくれた?
声を失う私を見て、団長が自嘲気味に笑った。
「すまない、忘れてくれ。そろそろ戻ろうか」
団長が来た道を折り返そうと歩みを進めると、やっと近づいた距離が一歩一歩また離れていく。
「私も、一緒に歩きたかったです!」
勇気を振り絞った声は上ずり、行かないでと心で叫んだ願いは、団長の手を掴むという暴挙にでた。
驚いた顔の団長を前に、口から流れ出る積年の恋心。
「私は、ずっと団長と2人で並んで歩きたかったです!だから・・だから嬉しいです。忘れてくれって言われても、忘れないですから!」