第1章 秋の散歩【エルヴィン】
少しスピードを落とし、一定の距離を保つようにする。
大きな背中を見つめてどれくらい歩いただろうか。スピードも緩められ、どこか目的地に向かっているというより景色を楽しんでいる・・そんな柔らかい雰囲気に包まれた。
ぶらぶら歩きの団長との距離を保とうとすれば、私の歩みは牛歩になる。
周りから見たら滑稽な風景だろう。調査兵団の団長と一介の兵士がお花畑の中を止まるような速度で練り歩く。
「気にせず横に来なさい」
笑いを含んだ声がし、団長が私に微笑んでいた。
「承知しました!」
横に並ぶなんて恐れ多い、でも今は誰も見ていない。
――― 一度でいいから団長の横を一緒に歩きたい
そんな私の願いが叶うチャンスな訳で。
身体は正直に大きな一歩を踏み出した。
私が横に来たのを見て、またゆっくりと歩きだした。
警戒を怠ってはいけないと周囲を見渡すが、人の気配はない。
団長と私、二人っきり。少しだけ、夢見てもいいだろうか。
ゆっくり、ゆっくり呼吸を合わせていく。少しでも貴方に近づきたい。
「綺麗だろう」
いきなりの言葉に、質問の意図を理解しようと止まる。
「この景色」
団長の目線の先には、ずっと続く赤い花々と夕日のオレンジが混ざろうとしていた。
「素敵ですね・・」
素直に見惚れてしまった。朱に染まる景色と、それを見つめる団長の横顔に。