第1章 秋の散歩【エルヴィン】
王都からの帰り道。
馬車の中で佇んでいると、秋の香りを漂わせた風が頬を撫でた。
「すまない。少しここで降ろしてくれないか」
赤い花の絨毯を見つめてエルヴィン団長は言った。
「どうしたエルヴィン?」
リヴァイ兵長は訝しげに聞く。
「気晴らしだ」
いつもならば、早く調査兵団本部に帰って仕事を片付けたがるのに。
不思議に思いつつ、エルヴィン団長が降りた後をついて行く。
調査兵団、13代団長エルヴィン・スミス。
本部以外の場所で一人歩きは危険だ。兵士たちは我もと付き添おうとするが、団長はそれを片手で制した。
「護衛は彼女がいれば十分だ」
きっと何か目的があるのだろうか。黙って歩く団長の少し後ろに付き、一定の距離を保ちながら足を進める。
「ほっておけ。大方クソでもしたいんだろ」
「しかし、彼女だけでは・・・」
リヴァイ兵長と不安がる兵士達の会話を背に、足早に進んでいく。
周りにあるものは色付き始めた木々と、足元には赤い花が敷き詰められているだけ。
壁内だから巨人の恐怖はないが、ならず者がいないわけではない。誰かに襲われた場合、私だけで団長を守り切れるのか。
緊張で身を固めているせいか、速く歩きすぎたのだろう。団長との距離が縮まってしまった。