第4章 親愛なる人へ(エルヴィンサイド)
落ち着かないのは普段嗅ぎなれない甘い香りのせいか、華やいだ空間のせいか。それとも、目立つからと兵団服を脱ぎ私服を久しぶりに着ているせいか。なんせ普段から兵士として血と汗にまみれる事に慣れた俺は居心地が悪い。
「何かお探しですか?」
同じ歳くらいの女店員が笑顔で尋ねる。
「明日用の花束が欲しい」
「親愛なる人へですね?お色味やお花のご希望は?」
希望?何も考えなかった。今日は出張の後処理でそれどころではなかったのだ。
「すまない。こんな時にどんな花を贈るものか分からないんだ」
素直に店員に助けを乞う。女性に花を贈った事がなかったと今更気付いた。
「その女性はどんな方で?」
戸惑う俺の表情を汲み取った店員が助け舟を出す。
「人となりやお客様との関係性とか、何でも結構です」
何でも…というのが1番困るのだが。
「賢く、思いやり溢れ、いつも私を助けてくれる。ただ些か我慢しすぎる。甘えさせたくともそれを良しとしないんだ。立場上、二人っきりの時間も作れなくてね」
花束のヒントというより懺悔の時間だな。
しかし、店員は俺の回答に満足したのか大きく頷き、
「畏まりました!お任せ下さい!」
バケツの花々へと向かっていった。
青と緑で作られた花束は金色のリボンで巻かれていた。
「お客様をイメージしました」
「私を?」
「ええ、その方があの女性も団長さんが傍にいる気分になるでしょう?」
最初から身分も何もかもバレていたのか。
「参ったな」
「見ていれば分かりますって」
"大丈夫、きっと喜んで貰えます"
店員の言葉を胸に店を出た。