第4章 親愛なる人へ(エルヴィンサイド)
「貰ってくれないか?今日は親愛なる人に花を贈る日だろう?」
目を丸くしたのは一瞬で、すぐに瞳に薄い涙の膜が張った。シーナで見かけたプロポーズを受けた女性と同じ顔だ。
堂々と想いを告げたシーナの男に比べて"貰ってくれないか?"なんて情けないな。
花束は自分の分身、まるで婿にしてくれと言っているようなものだ。
目線の先にはソファーに山積みの花束。いずれ枯れてしまうのだろう。命あるものはいずれ終わりがくる。明日かもしれないし、もう少し先かもしれない。
「跪くのはまだ早いからしないよ」
そう、"まだ"なんだ今回ではない。
さすがに大事な時は、何かのイベントに縋らない。
「実は私も」
彼女から差し出された花の美しさには目もくれず、言葉より雄弁な口づけを額におとした。
照れを誤魔化すように花を花瓶に生け始めた後ろ姿を見て、安堵する、
忙しい日々を送る中で、先日想いが通じたのは幻だったのかもしれないと疑っていた所だったが.......。
どうやら本当だったらしい。
彼女の手から一輪花が零れる。
「ここへ」
心臓側の胸ポケットを指すと、伏し目がちに恭しく彼女は花を差した。
「この前シーナで見た光景を思い出すな」
自由の翼の紋章は隠れたが、今くらい団長ではないエルヴィン・スミスに戻ってもいいだろう。頬を朱に染めた彼女に口づける。
「こんな日でもないと、気の利いた事も出来ない」
人に想いを伝えるには何かの切っ掛けも必要だ。
―END―