第4章 親愛なる人へ(エルヴィンサイド)
──エルヴィンサイド──
「俺と結婚してくれ!」
緊張に顔を強ばらせた男が跪いて花束を贈る。
女は目に涙を溜めて、鮮やかな花々を受け取りその中から1本抜き取って男の胸に差した。辺りは歓声に包まれる。
めでたい事だ。
俺が拍手をすれば、付き添っていた兵士たちも手を叩いて祝福した。
照れる2人の傍を通りすぎ馬車へ乗り込む。後は調査兵団本部に帰るだけ。
緊張の糸が切れたからか、先程の幸せを目の当たりにしたからか彼女の表情は柔らかい。
きっと後者だろう。花屋を見つけた彼女は、一瞬だけだが羨望の眼差しを見せた。
「今日はもういい、下がりなさい」
「承知しました!」
連日連夜、慣れないシーナでの補佐で疲れているだろう。早く彼女を休ませなければ。
敬礼をして自室に戻る彼女の背中を見送るが、本音は帰したくはなかった。
自身の誕生日だからと、立場を忘れて抱きしめたあの日を最後にずっと団長と副官のままだ。それを良しとは思っていない。
"親愛なる人に花を贈る日て知ってる?"
帰還した俺の顔を見るなり、挨拶もなしにハンジが耳打ちしてきた。そんな日もあるな…確か明後日だったか。
物言いたげなハンジの表情。ああ、分かっている世話をかけるな。頷いた俺の顔をみて、ハンジは安心した表情を見せた。花束か…買うとしたら明日だ。