第11章 帰還3
「……っ、あつ姫ッ! クソッ!」
倒れる娘を慌てて抱き留め、座布団に寝かせた信長は、居室の出入り口に向かった。
その顔は、般若のように恐ろしい。
そして、襖に手を掛けようとすると、スッと開き、如月が平伏していた。
「信長様、あつ姫様は?」
「気分を害し、気絶しおった。……クソッ、俺の天主で不埒な真似を……奴らはどうした?」
姿勢を正し、座ったまま信長を見上げる如月の顔は、未だ無表情だ。
大きく息を吸い込むと彼女は口を開いた。
「はい。……あの姿のまま縛り上げておきました。今は、護衛達が見張っております」
『あの姿』とは、信長も見たもの。
男が果て、女の上で脱力している姿だ。
無論、二人は素っ裸。
思い出すだけでも、腸が煮え返る。
「あの、信長様。……今までも、このような事が頻繁にあったのですか?」
如月の問いに、信長のこめかみに青筋が立つ。
「ある訳なかろう。いや……天主以外では頻繁かもしれん。一応禁じてはおるが、仕事中でなければ、俺の知ったところではない」
「そうですか。であれば、私達護衛はあつ姫様をこの城から連れ去らなければなりません」
如月の言葉に、信長は顔色ひとつ変えない。
彼女が本気で言っている訳ではないと分かっているからだ。
がしかし、その言葉の意味は『早々に手を打たなければ、そうなる』と言っているのだ。
「ふんっ、小癪な。今までより厳しくする。娘に……あつ姫に、男女の交わりなど見せたら一生眠り続けてしまうわ」
「そうですね……」
小さく溜め息を吐いた如月は、スッと立ち上がり、頭を下げると踵を返した。
「奴らは殺すな。血の臭いであつ姫が卒倒するぞ」
「……では、どうしろと……?」
無礼を承知で、振り向かないまま信長に問う如月。
「少し待て」
信長の短い言葉に、しばらくその場で立ち尽くしていると、カサッと音がして、如月の足元に一枚の書状のようなものが投げられたのだった。