第11章 帰還3
サッと拾い上げると折り畳まれた紙を広げ、素早く目を通す如月は、口端を上げる。
だが、未だに信長に背を向けたままだ。
普通なら首を刎ねられるような行為なのだが、信長は、然して気にもしていない。
書状を懐にしまう如月を確認し、信長は口を開いた。
「あの二人は、今日一日、皆が見える所に吊るしておけ」
「ほほ、それは楽しそうですね」
「貴様や護衛どもの気が晴れるであろう」
「信長様は、この御触書だけで宜しいのですか?」
「ふんっ、本来ならあの場で首を刎ねるところだ。だが、あつ姫がそばにおるから、殺生は出来ん。それに……まあ良い。俺は、あつ姫に付いておる。貴様は行け」
如月は、信長の方に姿勢を正すと、口角を上げた。
「まだ朝餉には時がありますので、さっさと吊るして参ります。戻るまであつ姫様を宜しくお願い致します」
軽く頭を下げ、足早に立ち去った如月だったが、信長に見せた顔は、明らかに悪い笑みを浮かべていたのだった。
一方、
家康から嫌味を言われ、苛つきながら歩いていた政宗は、外の騒がしさに気が付いた。
大声で笑ったり、女達のはしゃぐ声。
何事かと、政宗は騒がしい方へと足を向けた。
そこには、家臣や女中、下男や下女達までもが何やら上を向いて指を指している。
政宗のいる屋内からは見えない。
「何の騒ぎだ?」
続々と集まる家臣達に、政宗も適当な草履を足に引っ掛けると外に出た。
「な……ッ!」
政宗は、驚き、声が出なかった。
皆が見上げているのは、天主台の高い石垣。
その上から、男と女が抱き合うように縛られ、上から吊るされていたのだった。
無論、真っ裸だ。
皆、その二人を揶揄うように笑っていたのだが、機嫌が悪そうな家臣らしき男が、野次馬を押し退けると、その二人の下辺りに木の棒を突き刺した。棒の上には、平たい板がくくり付けてある。
そこで、皆は、何か貼られると悟り、一斉に口を閉じた。
と、スタスタと如月が歩いて来た。
そして、板に書状を張り付け、その横に立つと、集まる者を一瞥し大きく息を吸い込んだ。
「……上様の命を伝える。皆の者、一切動かず、口も開くな……」
如月の発する怒気を孕んだ声に、集まる者達は、喉をゴクリとさせたのだった。