第10章 帰還2
『守る』とは、どういう意味なのか。
あつ姫を何から守るのか。
家康には、信長の意図が分からず、気付かないうちに訝しげな表情をしていた。
「あの……この城で危険などありますか?」
つい、思った事を口にしてしまった家康だが、その問いに信長は鋭い目つきになっていた。
「すぐに分かる。……話は終わりだ。軍議まで時がある。貴様はもう下がれ」
「……はい」
結局、それ以上は何も答えてもらえず、家康は、天主を後にした。
湯殿では……
あつ姫が眠ってしまい、如月は、慌ててあつ姫の長い髪や身体を洗い、新しい襦袢を着せていた。
しかし、着物を着せる事が出来ず、打掛けで包むと、足早に天主に戻って行った。
その後ろ姿を少し離れた場所から見ている男達がいた。
「あれは、あつ姫様の御付きの者だな。何を急いでるんだ?」
「秀吉様、如月殿は、あつ姫様を抱き抱えておりましたよ。昨夜あつ姫様が戻られたようです。これでお屋形様も安心されたでしょう」
「……‼︎ 三成、よく知っているな。俺は何も聞いてないぞ」
「私も先程聞いたばかりで、秀吉様にご報告に参るところでした。あつ姫様が見つかり良かったですが、今日は、大勢の首を刎ねるという仕事があります。一体何人処分されるのか……」
「……? それは三成が調べたんじゃないのか?」
「いえ。私は何も聞いておりません。秀吉様もご存知ないのですか?」
「聞いてないな。まあ、今日の軍議で分かるだろう。さて、俺は自室で朝餉を食うが、お前はどうする?」
「私は、食堂で頂きます。その時に女中達の様子を伺って来ます」
見ていたのは、秀吉と三成だったが、今日の軍議も荒れそうだと、肩を落として、その場を立ち去ったのだった。
一方、
あつ姫を抱え、天主に急いでいた如月は、秀吉達の存在に気付いていたのだが、話しかけられても面倒だと、それを無視した。
そして、天主の三階に着くと、あつ姫の顔を見て安堵し、その歩みを止めた。
「あつ姫様、お目覚めですか?」
「……うん。寝ちゃったね」
「……‼︎ 姫様……お気になさらずに。さあ、お部屋でお召替えを致しましょう」
何故か驚いた表情をした如月を不思議に思った。しかし、すぐにいつもの彼女に戻っていたので、私は何も言わなかった。