第10章 帰還2
ゆっくりと湯に浸かり、私は、如月の危惧していた通り、ウトウトし始めていた。
「姫様、あつ姫様、お眠りになってはいけません。朝餉まで我慢して下さい」
「……うん。……分かってる」
そう答えながらも、猛烈な眠気に勝てず、そのまま眠りについたのだった。
同じ頃、天主では、
隠してもいずれバレると思い、家康が正直に全て話していた。
「申し訳ありませんでした。信長様もお一人でしたので、何かあってはいけないと、勝手な判断で後を追ってしまいました」
「俺の後を追ったのなら、何故、声をかけなんだ?」
「それは……あの忍びと合流されていましたので、危険はないと思ったんです」
家康がそう思ったのは確かだった。
しかし、あつ姫が見つからず、信長が怒り狂っていた為、自分が姿を現せば、信長の怒りが更に増すと思った事の方が、声を掛けなかった大きな理由だった。
おそらく信長は、それに気付いたが、あつ姫を見つけた事で、それ以上深く追求してこなかった。
その後、山の中の明かり、魔獣達が一箇所に集まっていた事、あつ姫がその魔獣達と一緒にいた事を詳しく話した。
「……という次第です。あつ姫様が魔獣達に囲まれていて、かなり驚きました」
「そうか……貴様が見た蝋燭の灯りは、妖魔だ。本物の火ではない。……しかし、大陸からの虎が、この安土に居たとはな」
「あ、はい。自分も驚きました。あの……それがその虎が言葉を話したんです」
「ほう……虎がなぁ……」
信長の顔色を伺いながら話していたが、然程驚いていない様子。
しかも、人を襲う魔獣があつ姫を守っていたという事実にも、信長は、何も言わない。
「して、虎は何と言うておったんだ?」
「あの……今のあつ姫様には、父親の愛情が必要だと……それから、今後は、あつ姫様を一人にするなと、信長様に言付けを預りました」
「ふんっ、魔獣に言われんでも分かっておるわ。あつ姫は、この俺が……織田信長が守る」
信長の言葉に、家康が疑問を抱いていたのは言うまでもなかった。