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夢幻の如く

第10章 帰還2


「父上、昨日はごめんなさい」

「あつ姫、その話は終わった。もう気にするでない」

改めて昨夜の事を謝ったのだが、信長は、大きな手で私の頬を包み込むと軽く微笑んだ。そして、視線を如月に向けた。

「あつ姫を湯殿に連れて行け。場所は分かるな?」

「承知致しました。あつ姫様の朝餉は如何されますか?」

「着替えが終わったら、俺と一緒にここで食べる。あつ姫、風呂に入って来い。お前専用の湯殿がある」

「あ……うん。でも朝から入って良いのかな?」

信長は、私の頭をひと撫ですると小さく溜め息を吐いた。

「あつ姫、『織田信長の娘として堂々としておれ』と、言うたであろう。お前は好きに過ごせば良いのだ。朝晩風呂に入るのは、お前の習慣だ。行って来い」

「……相分かった」

返事はしたものの、本当に良いのか分からなかった。
それは、信長の様子が変だという事もあったからだった。
少し考え込んでいると、如月が私を抱き上げた。

「姫、歩けるよ」

「あつ姫様、いけません。お食事もほとんどされておりませんので、今日一日は、如月めがお手伝い致します」

「えーー、大丈夫だよー」

「あつ姫、お前の身体の為だ。俺が心配だからな」

あまり納得はしなかったが、これ以上、信長に心配をかけるわけにはいかないと、如月に横抱きされたまま、寝所を後にした。





あつ姫が出て行った少し後、信長は、着替えながら苛ついていた。
そして、寝所の階段を下りると居室の襖をスパーンッと勢いよく開けた。
そこには、男が膝を付き、頭を下げ控えていた。
信長は、その男を見下ろし、口を開いた。

「登城するには早いであろう。何をしに来たのだ?」

「はっ! 昨夜のご報告をと思い参りました」

そう返事をしたのは家康だった。
信長の機嫌を損ねた原因だ。
家康の気配をいち早く感じ、寝起きのあつ姫と会わせない為に早々に湯殿へと行かせたのだ。
だが、本当はあつ姫と話をしたかった。それを邪魔され、機嫌が悪くなった。極力、あつ姫には、それを悟られないようにしたものの、娘には些細な事も隠せなかった。
そして、益々機嫌の悪くなる信長だった。

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