第10章 帰還2
早朝、大手道。
いつもより早く登城する為、武将達が家臣を引き連れ足早に歩いていた。
しかし、その中に家康の姿はなかった。
彼は、あつ姫を信長に渡した後、屋敷に帰ったが、やはり眠れず、空が白み始めるとすぐに登城したのだった。
その少し前。
天主、信長の居室前廊下では、如月が護衛と共にあつ姫が目覚めるのを待っていた。
そして、何かに気付くと声もかけず、静かに居室へと足を踏み入れ、寝所へと続く階段を上った。
「あつ姫様、お目覚めですか?」
階段を上った所で平伏する如月。
「……うん。……起きた。父上はまだ寝てるけど……」
「あら、お珍しいですね」
私は、横になったまま、小さな声で答えたが、動く事が出来ない。信長がガッチリと腕を回しているからだ。
眠りの浅い信長が、私より後に起きる事など滅多にない。如月が驚くのも無理はない。
(父上、寝ながら、眉間に皺寄せてる。動いたら起きちゃうな。どうしよう)
信長を起こさないようにする為には、どうするべきか考えるが、自分が少しでも動けば、信長は必ず目を覚ます。それはなぜかというと、腕だけではないからだ。信長の片脚もガッチリと私を挟んでいた。
要は私の状態は、信長の抱き枕なのだ。
これでは、打開策がない。
「あつ姫様?」
如月の声にハッとして、頭を少し動かしてしまった。
すると、信長の抱き締める力が強まった。
「父上、起こしちゃったね」
「別に構わん。それよりあつ姫が俺より先に起きるとは珍しいな」
信長はそう話しているが、腕の力を弱めてくれない為、目を開けているのかも分からない。
「父上、苦しいんだけど」
「ふんっ、朝くらい良いではないか。それに、こうしておらんとお前は寝相が悪いから布団から転がるであろう?」
「むうぅー、姫、もう起きたもん。父上も起きてよ」
「ククッ、ああ分かった、分かった」
腕と脚を解いた信長は、気怠るそうに起き上がった。
それを見て私も起きたのだが、ふと気付いた。
「寝間着を着てるけど、何でかな?」
「ああ、昨夜戻ってから如月が身体を清めた後、着替えさせたんだ」
「……そっかぁ……」
昨夜の事はあまり覚えていないが、結局、信長に迷惑をかけてしまったんだと、また落ち込んでしまった。