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夢幻の如く

第10章 帰還2


信長は、右腕であつ姫を抱き締め、左手は、あつ姫の頭を優しく撫でていた。
そして、更に話を続ける。

「あつ姫、俺はお前には嘘は吐かん。天主の三階は、確かに俺の家族の部屋として作られた。それは、先の話として家臣がやった事だ。ゆえに別の所も何も、何処にも新しい家族など居らんのだ。……それとだ、三階の部屋は、お前に貸したのではなく、お前の部屋だ」

信長の優しい声。
確かに、私には嘘を吐かない。
何度も言い聞かせるように『新しい家族は居ない』と言う。
では、あの噂話は何だったのだろう。
よく考えたら『新しい家族』という表現をするなら、『古い家族』は誰の事か?
未来から来た私は、『古い家族』ではないのだ。
頭がこんがらがり、涙も引っ込んだ。

「あつ姫、誤解は解けたか?」

考え込んでいると、信長が身体を離し、私の顔を心配そうに見ていた。
信長の話は本当なのだろう。
噂話を鵜呑みにして、自分の聞いた娘の話と混同してしまったのは確かだ。
それは、自分の記憶が抜け落ちている事にも原因がある。
私は、自分の浅はかさに俯いた。

「うん。……ごめんなさい。もう噂話は信じないよ」

「そうだな。今後、疑問があれば俺に聞け。それに、いちいち噂話など気にするでない。織田信長の娘として堂々としておれば良いのだ」

「……相分かった。……それから、この時代では、パパって呼ばない」

「うーん、それは寂しいな。俺は呼んでもらいたいが、まあ、お前に任せる」

「うん。父上って呼ぶよ」

私がそう言うと、信長は、本当に寂しそうな顔をしていた。
と、突然、強い眠気に襲われ、座ったままその場で眠ってしまった。

「あつ姫、泣いたから眠くなったのか。まだ早い。もう少し眠れ。俺が側に居てやる」

信長は、そう言ってあつ姫を抱き締めながら、少しだけ眠りについたのだった。
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