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夢幻の如く

第10章 帰還2


翌朝……
私は、温もりを感じ、目を覚ました。
しかし、目の前は壁のようで暗い。
それにだ、身体を拘束され、身動きが出来ない。

「……? あれ?」

かろうじて動く手で壁をペタペタと叩くと、感触が壁ではなかった。
(この香り……まさか……?)

「パパ……?」

「……あつ姫、目が覚めたか? 気分は悪くないか?」

声がする方に頭を少し上げ、信長の顔を見たのだが、私は溜め息を吐いた。

「パパ……その赤い瞳。……まだ……戦国時代なんだね……」

「……ああそうだ」

「ごめんなさい。パパを巻き込んだ」

「そうではない。俺が勝手に来たんだ。娘を心配しない親がおるか?」

「でも……」

だからと言って、信長がここまでする事はない。反論しようとしたが、二の句が継げない。代わりに私の瞳が潤み始めた。
と、信長が腕に力を入れ、私を抱きしめた。

「あつ姫、お前の言いたい事は分かる。だが、何も言うな。俺のした事だ。お前に責任はない」

「……っ、パパ……」

「ああ、俺は、お前の父だ。いつの時代でも、織田信長の娘はあつ姫だけだ」

信長の言葉を聞き、山の中で出会った男の話を思い出した。
あの時、男は『織田信長の娘は、前世も来世も、あつ姫という娘だけ』と言った。
そして、信長も同じ事を言った。

「でも……パパには、この時代に……新しい家族がいる。……天主の三階は、その人達の部屋だよね? 姫は……邪魔したくない」

「おまっ……何を言うておるんだ?」

急に身体を離した信長は、驚いた顔をして私を見ていた。
しかし、私は話を続けた。

「みんなが話してた。……姫は邪魔者だって。だから、パパの迷惑にならないように元の時代へ戻るまで、隠れて暮らすよ」

涙をポロポロ流しながらも、精一杯、信長に微笑んだ。
(これで良い。私が……あつ姫という存在が居なくなれば、この時代の織田信長も元の生活に戻る)
目の前が滲んで、信長の顔は見えないが、きっと安堵していると思った。

「あつ姫、止めろ」

「えっ……?」

怒りを含んだような信長の声に驚き、私は戸惑いを隠せず、動揺したのだった。
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