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夢幻の如く

第9章 帰還1


引き寄せられるように、男が姿を現した。
だが、その男は、目の前の光景に喉をゴクリとさせた。
その空間だけ、まるで異世界のような雰囲気。沢山の蝋燭がその場所を照らしていたのだ。
そして、そこには、獰猛な肉食獣と草食獣が、一か所に集まり、身を寄せ合っている。しかも、その動物達は、普通よりもかなり大きい。
そう、この時代では、魔獣と言われる生き物だ。通常の動物と見た目は変わらないが、大きさが違う。そして、魔獣は人を襲うのだ。
だが、目の前の魔獣達は、突然現れた男に目もくれない。
中心にいる何かを守っているようだった。

「……あつ姫……見つけた……」

その中心にいたのは、虎に包まって眠るあつ姫だった。

男は、近付こうとするが、魔獣達がそのいく手を阻むかのように、あつ姫を守っている。
少し考えた男は、口を開いた。

「お前達、あつ姫を守ってくれてるんだな。だが、あつ姫の父上も心配している。俺は、あつ姫を傷付けたりしない。分かってくれるか?」

自分は無害だと説明しようとするが、男は、言葉が浮かばなく、ありきたりな事を言ってしまった。
と、あつ姫を包んでいる虎が、男を鋭い目で見た。

「……人間の子よ。あつ姫は、俺達といる方が幸せだ。だが、信長が心配する気持ちも分かる。今は、あつ姫をお前に委ねよう」

「……! 本当か?」

「俺達は、嘘はつかない。あつ姫を守るのは俺達魔獣の宿命。あつ姫がここで暮らしたいと言えば、それに従う。しかし、今のあつ姫には、父親の愛情が必要だ。だから、あつ姫が眠っている間に連れて帰れ」

虎がそう言うと、魔獣達は、男が歩けるように道を開いた。
男は、魔獣達を刺激しないよう、ゆっくりとあつ姫に近付いて行った。
そうして、あつ姫を優しく腕に抱くと、大きく息を吐いた。

「良かった。……怪我はしてない。お前達が守ってくれたおかげだ。礼を言う」

「ふん、お前に礼を言われる筋合いはない。それよりも、二度とあつ姫を一人にさせるなと、信長に言っておけ」

「分かった。伝える」

男は、そう言うとあつ姫を抱えながら、元来た道に戻って行った。
そして、それを木の陰から見つめる、もう一人の男がいた。
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