第8章 それぞれの苦悩3
老婆の説明によると、夜更けの訪問者に警戒をした。
そして、関係のないあつ姫を巻き込んではいけないと、眠るあつ姫を馬に括り付け、逃がしたとの事だった。
「大吾、あつ姫を追え。裏口にもう一頭、馬がある。行け」
「承知」
短く返事をした大吾だが、裏口に向かう途中で足を止め、振り向いた。
「信長公、その老夫婦を殺してはいけませんよ。彼等は、あつ姫様に食事と寝床を提供した、姫様の恩人ですから。では」
「ふんっ、余計な事を……まあ良い。娘の恩人なら仕方ない。俺が貴様らに何かすれば、娘は口を聞いてくれんからな。だが、今後は、些細な事も全て報告せよ」
「ははぁっ! しかと肝に命じます」
そうして信長は、城に戻り、大吾は、あつ姫の後を追った。
その頃、私は揺れる馬の背で、目覚めていた。
「あれ? 部屋で寝てたのに、何で馬の上なんだ? しかも縛ってあるし……」
不思議に思ったが、馬はゆっくりと歩き、揺れ具合が良く、また眠ってしまった。
だが、馬が山の中を突き進んでいた事には気付かなかった。
しばらくすると、馬の歩みが止まった。
そして、しきりに前掻きをしている。
その音で、私はすぐに目を覚ました。
「もう疲れたのか? お前は休んで良いよ。姫が寝ずの番をするから」
馬に話しかけていたが、周りに視線を移すと、そこが山の中だと分かった。
「山の中なら安心だ。山のみんなが守ってくれる。お前は安心して休めるよ。……さてと……」
最初から、山の中に身を潜めるつもりだったので、私自身も安堵した。
そして、自分に頑丈に巻き付けてある縄を簡単に外すと、とりあえず、馬から降りた。
が、周りに何か居ないか興味が湧き、夜の山を散策し始めた。
「おーい! 誰か居ないかぁ!」
夜の山で大声など、自殺行為と思われるが、そんな事、私には関係なかった。
何度か呼んでいると、周りがガサガサと音を立てていた。
私は、ワクワクしながら、岩に腰を下ろし、その何かが出て来るのを待った。