第8章 それぞれの苦悩3
大吾は、老夫婦の家に行く前、信長に報告を入れていた。
そして、居ても立っても居られなかった信長は、自らあつ姫を探しに出た。
丁度同じ頃、眠れない家康が真夜中の大手道を歩いていた。
「あれは、信長様……? こんな夜更けに馬で何処へ行かれるんだ? まさか、あつ姫が見つかったのか?」
家康は、慌てて屋敷に戻り、馬で信長の後を追った。
そうして、家康もまた老夫婦の家に辿り着いていた。
だが、自分が出て行くとマズイと思い、少し離れたところから様子を伺っていた。
しかし、信長が怒りまくっているところを見ると、あつ姫は居ないと察し、その場から離れた。
一方、その信長だが、老夫婦からあつ姫の話していた事を聞き怒りまくっていたのだ。
「俺が、邪魔者扱いしただと? そんな事有り得んわ。何処でそんな話を……」
「信長公、多分、女中か家臣達の噂話でしょう。天主の三階は、本来、貴方とその家族の住居として作られた。しかし、そこに突然、あつ姫様が住む事になった。皆、貴方の娘だと信じていないから妙な噂話をした。……姫様は、貴方に新しい家族が出来るなら、自分が居ない方が良いと判断された」
と、老人が信長と大吾の話を聞き、目を見開いた。
「ま、まさか、あの娘っ子は、信長様の……」
「じじい、何を言っておる。先程から娘だと言っておるだろう」
いやいや、聞いてない。とは勿論言えない。だが、黒髪に青い目の娘が信長の娘だと、ようやく分かった。しかし、まだ疑うのが、元忍びだ。
「本当に姫君様ですか? 着ていたのは襦袢だけで古びた着物を羽織っていましたが、とても姫君様がお召しになる代物ではありませんでした。まして、顔も泥だらけで、湯浴みもしてない様子でした」
「疑り深いじじいだな。俺の実の娘で間違いない。娘は城を抜け出す際、素性がバレんように、わざと汚したんだ。で、俺の娘は何処だ?」
再度問い掛ける信長に、老婆は畳に頭を擦り付けた。
その様子に、あつ姫が既に此処には居ない事を信長と大吾は察した。