第7章 それぞれの苦悩2
政宗の場合……
褥に大の字になり、天井を眺めながら、今日の出来事を思い出していた。
朝早くに安土に帰って来たが、長旅の疲れも有り、登城時間を遅らせた。
それは、信長が邪気に侵され休んでいると聞いていたからだ。
しかし、登城してみると、既に信長は回復し、緊急の軍議が開かれていた。
まあ、それについてのお咎めはなかったが、後が悪かった。
元来の女好きが出てしまい、あつ姫を品定めし、側室にと請うてしまった。
無論、信長の娘とは知らずにだが、光秀の言う通り、信長の腕の中にいる娘に対して無礼が過ぎたのは事実だ。
更に、あつ姫を下女と間違えてしまった。自分が気付いていれば、信長の機嫌も良くなり、大勢の者が首を刎ねられる事にはならなかったはず。
過ぎた事を悔やんでも仕方ないと、政宗は、気を取り直し、襖の外に控える家臣に声をかけた。
「おい、誰か呼んで来い」
「殿、もう夜更けです。側室方はお休みですが……」
「良いから、一番若い側室を連れて来い」
「……承知致しました」
政宗に聞こえるように大きな溜め息を吐き、家臣はその場を離れたのだが、呼ばれるのが分かっていたのか、側室の一人がすぐにやって来た。
しかし、その側室を見て、政宗は顔を歪めた。
「一番若いのが、俺より年上とはな……自分で側室も選べないとは……何が伊達家当主だ。クソッ!」
「殿……?」
褥に近付いて来た側室の寝間着を乱暴に脱がすと、まだ準備の出来ていない側室の身体に、政宗は、後ろから無理矢理、己の物を突き刺した。
だが、その行為は、気分が悪くなるだけで、欲を吐き出す事なく止めてしまった。
「もう下がれ。二度と俺の部屋に来るな」
今までも年上の側室を抱いて来た。
しかし、今日は、顔を見るだけで気分が悪くなっていた。
なぜ、そんな事になったのか、政宗自身も分からなかった。
その夜、苛つきながらも、政宗は眠りについた。
そして、もう一人、家康は……
彼は、苦々しい表情で、一人の男から報告を受けていた。
「信長様の忍びか……」
「はい。彼が動いている以上、俺は動けません」
「分かった。もう下がれ」
忍びでも、上下関係はある。家康は、信長の家臣ではないが、信長の下に属す同盟国。ゆえに忍びも同じ扱いとなり、信長の忍びには逆らえないのだ。
何も出来ない事に苛立つ家康は、眠れぬ夜を過ごした。