第7章 それぞれの苦悩2
宴の終わった大広間では、家康と光秀、そして政宗が、先に部屋を退出していた。
残された秀吉と三成は、事情を知らない家臣達に信長に娘がいた事など、大まかな説明をし、大広間を出た。無論、行方不明という事実は伏せた。
廊下を歩く二人は、重苦しい雰囲気だ。
「三成、明日の事を考えると、気が重いな」
「はい。……ですがあつ姫様が、下女の仕事を完璧にこなしていたとは驚きました。数人で片付ける仕事をお一人でされていたとか……ただのお姫様ではないのですね」
「ああ……姫君といえば、我が儘で気位が高いのばかりだからな。それに、お屋形様の姫君となれば、相当気が強いと思っていたが、率先して体力仕事をしていたらしい」
「お顔を拝見するのは無礼でしたから、あまりはっきりと分かりませんが、まだ十二、三歳、いえ政宗様の言う通り十四歳くらいかも知れません。お身体がとても小さく華奢なのに、下女達は、あつ姫様お一人に力仕事をさせていました。やはり斬首に値します」
「三成、お前、案外厳しいな」
「そうですか? 私はあつ姫様が姫君様という事実は別として、子供に仕事を押し付けた下女達が許せないだけです」
真っ直ぐな三成に、秀吉は、それ以上何も言わなかった。
一方、先に大広間を退出した家康と光秀、そして政宗は、それぞれの屋敷に帰っていた。
光秀の屋敷では……
如月が、現状を報告していた。
「そうか。引き続き、護衛達と共にあつ姫様をお探ししろ。俺は、台所の下女の家に行って来る」
「……っ、光秀様……下女を殺すのですか?」
「それは分からん。もし、あつ姫様に対して非道な扱いをしたなら、それもあり得る。お前が関知するところではない。お前はお前の仕事をしろ」
「分かっています。ただ、あつ姫様が悲しむ事をなさらぬように……では」
チクリと釘を刺した如月は、光秀の屋敷を後にした。
そして、光秀は、彼女の言葉に軽く舌打ちをすると、台所の下女の家へと向かった。