第7章 それぞれの苦悩2
あつ姫が眠りについた頃、安土城の大広間では、暗い雰囲気で宴が終わろうとしていた。
秀吉らは、膳に手を付けず、ジッと信長を待っていた。
そして、上座の襖が開き、皆が静まり返った。
かなり機嫌の悪そうな信長。
秀吉らに緊張が走った。
ドカッと上座に座った信長は、皆を見る事なく、盃を手にした。
秀吉は、すかさず走り寄り、恐る恐る酌をしたのだが、案の定、信長に睨まれた。
「ふんっ、貴様ら、何も食っておらんのか? 料理を残すでないぞ。料理を残すとあつ姫が五月蝿いからな」
「あの……お屋形様、あつ姫様は、まだ……」
「秀吉、あつ姫が下女の仕事をしておったのは聞いたであろう。明日、娘を下女として扱った者全て、首を刎ねよ。以上だ」
信長は、酒を飲む事なく盃を乱暴に置くと、大広間を後にした。
秀吉らは、あつ姫が見つかっていない事を悟った。
そして、明日は大勢の首を刎ねるという、理不尽な命令に更に暗い雰囲気になった。
だが、それを打ち破るかのように、家康が口を開いた。
「秀吉さん、とりあえず料理を食べましょう。明日は大変な日になりそうですから。俺は、さっさと食べて帰ります」
「あ、ああそうだな……俺達が箸を付けないと、下段の連中もお預けだからな……」
秀吉が答えている途中で、家康は、既に食べ始めていた。
皆も食べ始めるが、政宗だけは、肩を落として膳に手を付けなかった。
それを家康が、横目でチラリと見るが、政宗に声をかける事なく、黙々と作業のように食べ続けた。
その少し前。
大吾は、あつ姫が通るであろう下働き専用の門に居た。
門番達を半ば尋問のように話を聞き出していた。
しかし、あつ姫を見た者は居なかった。
と、何か思い出したように、一人の門番が口を開いた。
「そういえば、下女が子供を連れて帰って行きました。頭から布を被ってましたが、あれは子供でした。てっきり、下女の子だと思い、門を通してしまいました」
「クッ、城を出て行かれたか……」
大吾は、懐から小さな鳥を出し、空に放った。
その後、急ぎあつ姫の後を追った。