第7章 それぞれの苦悩2
私は、行くあてもなく、湖の畔をトボトボと歩き続けた。
上手く城を出られた事もあり、頭に被っていた布を肩から羽織っていた。
「暗くなって来た。今、何月かなぁ。寒くないし、夏前くらいか……あっ!」
少し先に建物があり、暖簾のような物を見つけた。
何か書いてあるが、風で揺れていた為、よく見えなかった。
お腹が空いていたせいもあり、そこで何か食べられると思い、その建物に向かった。
外には、長椅子が置いてあるが、人はおらず、とても寂れた建物だった。
だが、食べ物の匂いにつられ、建物の中に足を踏み入れた。
「誰か、居ないかぁ?」
大声で呼ぶと、老婆が奥から出て来た。
「あらまぁ、こんな時間にお客さんとは珍しいねぇ。でも、もうすぐ終わりなんだよ」
「そうなんだ。……姫、お腹空いてて……でも、終わりなら仕方ない。また食べられる所を探す。おばあさん、ありがとう」
ガッカリして、建物を出ようと出口に向かっていると、奥からおじいさんが顔を出した。
「ばあさん、そんな子供を追い返すのは良くないぞ。残り物なら沢山ある。食わしてやれ」
「はいはい、お嬢ちゃん、残り物だけど良いかい?」
「あっ、うん。ありがとう」
よく分からないが、何か食べさせてくれるようだったので、とりあえず、小上がりに腰掛けた。
建物の中は、初めて見る物ばかりで、キョロキョロとしていると、おばあさんの笑い声が聞こえた。
「お嬢ちゃん、食事処は初めてかい?」
「うん。あんまり外に出た事ないんだ」
「そうなのかい。そういえば、親はどこにいるんだい?」
「親……? 父上が山の上にいるよ。でもね、新しい家族が出来るから、姫は、邪魔者なんだって、みんなが言ってた。だから、城……家を出て来たんだ。姫が居ない方が、父上も幸せになるし……」
「なんだか大変そうだね。親が子供を邪魔者扱いするなんて、ろくな親じゃないよ」
「違うよ、父上は立派だよ。だけど、姫が悪い子だからダメなんだ」
信長の顔を思い出し、新しい家族との幸せを願った。
そうしているうちに、おじいさんが運んで来た食事を完食すると、強い眠気に勝てず、そのまま眠りについた。