第7章 それぞれの苦悩2
木の陰に隠れていた私は、門番達の隙を見つけ、抜け出そうと考えていた。
「うーん、普通は門番二人くらいだよなぁ。今、何人だ? 六人、あれ? また二人来た。八人の目を誤魔化すのは難しいかぁ。何で下働き専用の門が厳重なんだろ。ここを抜けても、もう一つ、外に出る門があるし。どうしよう……」
その場に座り込み、しばらく、人の動きを見ていた。
すると、最初に廊下で出会い、掃除の仕事をくれた下女が歩いて来るのが見えた。
私は、すかさずその下女に近付いた。
「おばさん、今から帰るのか?」
「あー、あんた、さっき廊下を掃除してた子だね。また、随分と顔が汚れてるねぇ。で、あんたは、城の長屋住まいかい?」
「えっ、長屋? 違うよ。姫……私もこれから帰るんだ。おばさん、そこまで一緒に行こう」
「まあ良いけどさぁ、その頭から被ってる布を外したらどうだい?」
「私は、変な顔だから、親に隠せって言われて……ほら、目の色も青いし」
「あら、本当だね。青い目なんて初めて見たよ。あんたの親も大変だねぇ」
「親は居ないよ。……あっ、私は、あっちだから。おばさん、ありがとう」
「一緒に歩いただけでお礼を言うなんて、変な子だねぇ。あら? 親に言われてって言ったのに、親が居ない? よく分からないけど、まあ私には関係ないか。また明日ね」
下女と話しながら歩き、気付くと簡単に門の外に出ていた。
一緒に城下まで行こうとしていたが、迷惑がかかると思い、大手道の途中で下女と別れた。
道が別れており、特に疑われる事もなかった。
一人になった後は、道の端を歩き、なるべく人の顔を見ないようにしていた。
そうして、どんどんと歩いて行くと、山に入るつもりが、道を下り湖側の門に出てしまった。
しかし、そこは警備が緩いのか、門番が一人うたた寝をしていた。
「おじさん、風邪引いちゃうよ」
話しかけても熟睡している門番。
湖側からの攻撃を予測していないのだろう。人気のない場所で、年老いた門番。
「姫だったら、ここから攻撃するけどなぁ。ちょっと緩すぎるよ、安土城……」
警備の甘さに溜め息を吐くと、着ていた着物を脱ぎ、門番を包むようにかけた。
襦袢一枚になったが、年寄りの門番が風邪を引くよりマシだと思い、静かにその場を立ち去った。