第7章 それぞれの苦悩2
外を眺めながら、信長は考えていた。
この先、あつ姫を守っていけるのか。
大吾に約束をしたが、己自身もまだ完全ではない。
抜いたままだった、太刀の柄をグッと握り締めると、空を切った。
「信長様……もうお終いですか?」
「貴様か……そうではない」
背後から話しかけたのは大吾だった。しかし、太刀を鞘に納めた信長は、振り返りもしない。
大吾の嫌味に付き合っていられないのだ。
「俺は、まだ不完全だ。娘が庭の巨石に飲み込まれた時、前世の俺に意識を飛ばした。身体は、戦国時代の織田信長だが、心は、数百年後の織田信長。顔形、身体……ほぼ同じだ。だが……」
言い淀む信長に、大吾が一歩近付いた。近過ぎず、微妙な距離。
「瞳の色ですね……」
「ああそうだ。未来の俺は、あつ姫と同じ青い瞳だ。だが、この時代の俺は、瞳の色が定まっておらん。前世の記憶はあったが、瞳の色を覚えておらなんだ。……しかも、この時代の俺に娘が居た。それだけは覚えておったが、顔も名前も思い出せなんだ……」
それは多分、あつ姫の事だろうと、信長と大吾は感じた。
そして、あつ姫は誕生日が近付くと、なぜか前世の話を聞きたがった。
ある程度の事は話して聞かせたのだが、大切な娘に関してだけは話さなかった。
否、出来なかったのだ。
毎年、それの繰り返しで大喧嘩になる。
今回もそうだった。
だが、十七歳を目前に、大人に近付いていたあつ姫は、己の力で時を超えてしまったのだ。
「大吾、あつ姫を探せ。あつ姫が覚醒しておらん今、如月達では、娘を探し出すのは無理だ」
「信長公、俺に異論はありませんが、俺に頼るのは最後にして下さい。俺の主君は、あつ姫様だけですから」
「ふんっ、分かっておる。行け」
大吾は返事もせず、天主から消え去った。
丁度その頃、
私は、下働き専用の門近くに居た。
すぐに城を出て行きたかったのだが、小さな門にしては、厳重な警備になっており、門番らしき者達の人数がどんどん増えていた。