第2章 暗闇
そして、
数日前の出来事を思い出した私は、溜め息を吐いた。
織田信長なんて……あり得ない。
それに、あの瞳の色。
左右色違い。
真紅でさえ見た事がないのに、濃藍色など……
唇を噛み、信長の存在を否定していた。
しばらくそんな事を考えていたが、ふと気付くと消えそうだった松明が増やされ、少しだけ明るくなっていた。
一定間隔で、横一列に並んだ松明が照らしていたのは、通路のようなもの。
そして、私が居た部屋も微かに明るくなっていた。
よほど暗い場所などだろう。
松明の炎は、その周りだけを明るくし、部屋全体を見渡す事は出来なかった。
仕方なく、見えるところだけに視線を向け観察していた。
と、正面の格子が気になった。
(壁が格子? 中が丸見え。扉みたいなのがあるから、部屋だよね?)
見たこともない部屋に疑問を浮かべつつも、再度繋がれていた鎖に視線を移した。
首だけ動かし、背後の壁を見ると、上部にも二本の鎖がぶら下がっていた。
普通は、両手両足を拘束するのだろうが、子供だと思われている私は、足だけを繋がれている。良くはないが、とりあえず手は自由。お腹も空いてきたので、床に置いてあった粥を食べ始めた。
が、一口食べると持っていた匙を落とした。
ブルブルと手が震えだし、身体が熱くなるのが分かった。
額には、大粒の汗。
暑いのに、寒気がするという矛盾。
熱が出たんだなと冷静に考えつつも、そのまま目を閉じた。
同じ頃。
贅を尽くした煌びやかな部屋で、一人の男が気怠げに目を覚ました。
その傍らには女が座り、少し下がったところで男が片膝をついていた。
「信長様、ご気分はいかがですか?」
女は問いかけながら、水の入った吸い飲みを彼の口元に差し出した。
しかし、彼は、スパーンッと女の手を叩くと、吸い飲みを弾き飛ばした。
「信長様?」
「貴様……俺は病人ではない」
「あの、でも……」
「秀吉ィ! 誰が、この女を城に入れたっ!」
部屋の隅で控えていた秀吉が、腰を低くしたまま、慌てて信長の傍に跪いた。
「も、申し訳ございません。秀吉めが、お通し致し……」
半身を起こした信長は、鉄扇で秀吉の腕を叩き、彼の言葉を途中で遮った。