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夢幻の如く

第7章 それぞれの苦悩2


重い足取りで、大広間に向かう政宗。
あつ姫は見つからず、信長もまだ天主から出て来ていない。
あつ姫に対しての暴言が、失踪の理由にされたらと、気が重い。
何度も溜め息を吐きながら、歩いていると、顔見知りの下女に出会った。
本来なら下女と話す事などないが、兵糧作りの為に台所へ出入りするうち、話すようになっていたのだ。

「おー、お前かぁ。休憩は終わったのか? さっき台所を見て来たが、あの新入りの下女、いつもより綺麗に掃除をしてたぞ。調理道具も使いやすいよう、整理されていたしな。下女じゃあ勿体ないな」

「あらぁ、あの子全部やってくれたんですねぇ。よく働く子ですよ。でも、政宗様、あの子可愛らしい顔をしてますが、あんな青い目の子は、お目見え以下じゃないと使えませんよ」

「ほう……そうなのか……って、おいっ! 今、何と言ったっ! 青い目だと!」

政宗は、下女の肩をガシッと掴むと、激しく揺さぶった。
ただならぬ政宗の態度に、下女は驚いた。

「あ、あの、あの子が何か悪い事でも? 私が叱りますから、許して下さい」

「違うっ! その方は、あつ姫様と言って、信長様の姫君様だ! 下女に使うとは、お前達、首が飛ぶぞ!」

「ヒイッ! 信長様の姫君様! ど、どうしましょう…… 」

腰を抜かした下女を放り出し、政宗は、戦が始まるかのような鬼気迫る表情をして、台所に急いだ。
走りながら、政宗は、先程の会話を思い出していた。
あの時、あつ姫は『信長』と呼び捨てにしていたのだ。しかし、それが本人とは気付かず、あつ姫を探し出す事に焦り、特に気にも留めず、顔すら確認をしなかった。

「クソッ! 俺とした事が!」

息を切らして台所に着いた政宗は、中に誰も居ない事に愕然とした。
すぐさま踵を返すと、大広間ではなく、天主へと向かった。

政宗が台所に着く直前。
私は、全ての掃除を終え、誰にも見つからないよう台所の裏口から抜け出していた。
そして、井戸まで行くと、そこに座り込んだ。

「うーん、これからどうしよう……とりあえず城から出るしかないな。ここは、安土城だから、山の中に隠れれば良いかな。……と、その前に泥で顔を汚しておけば、バレないな」

顔にペタペタと泥を塗り付け、なるべく人目を避けながら、下働き専用の門を目指した。
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