第7章 それぞれの苦悩2
皆が自分を探しているとは思わず、私は、台所の片付けを一人で頑張っていた。
無理矢理押し付けられた訳ではないが、一人になりたかった事もあり、皆には、休憩に行ってもらったのだ。
「うん。大分綺麗になったな。しかし、井戸は遠いし、力仕事を下女に任せるなんて、この時代の男はダメだなぁ。……さてと、後は洗った鍋を片付ければ終わりかな」
台所の掃除を先にしてしまったので、洗い終わった鍋は、まだ井戸の洗い場に置いたままだった。
そして、鍋を取りに外に向かった。
そのすぐ後、政宗が台所を覗いていた。
新しい下女が一人で掃除をしていると聞き、さすがに気になっていたのだ。
「誰もいないか……しかし、綺麗に掃除をしたな。いつもより片付いてるが。新しい下女は、よほど有能なんだなぁ。……おっと、いかん。あつ姫様を探さないとな」
政宗が、踵を返そうとした時、裏口から下女が入って来た。
頭には布を被り、顔は良く見えないが、一瞬で新しい下女だと分かった。
「おい、お前が新しい下女か? 綺麗に掃除をしたな。整理整頓もされているし、下女では勿体ないな」
(しまった! 伊達政宗だ)
見つかったらマズイと思った私は、さりげなく頭の布を下げた。
「掃除が好きだから、大丈夫だよ。みんなは休憩中。力仕事はおばさん達には大変だからね。それに、姫……じゃなくて、私は、下女で満足してる。それより、こんな所に居ると信長に怒られるよ。まだ仕事の途中だから。じゃあね」
「あっ、おいっ! 何だ、あの下女は。逃げるように出て行ったな。まあ良いか。さて、もうほとんど探したが、あつ姫様は見つからないなぁ。信長様が怒り狂ってるらしいが……」
大きな溜め息を吐きながら、政宗は、台所を後にした。
そして、台所の外に隠れていた私は、見つからずホッとしていた。
「どうしよう……やっぱりここじゃダメか。鍋を片付けたら、城を出て行こう」
そう決意し、残りの仕事を片付けるべく、井戸へ向かった。
その頃、
信長と政宗以外の武将達は、大広間に集まっていた。
宴の時刻になり、あつ姫を探すのを諦めたのだ。
武将達の表情は暗い。
しかし、家臣達は事情を知らない為、急遽開かれる宴に皆浮き足立っていた。