第6章 それぞれの苦悩1
あつ姫を見つけ出そうしているのは、他の武将も同じだった。
その中でも、政宗が一番焦っていた。
信長の許しは得たが、怒りが解けた訳ではない。ゆえに、あつ姫を見つければ、機嫌が良くなり怒りも忘れると考えたのだ。
しかし、城内を歩き回っていると、女中達が群がり、その度に愛想を振りまいてしまう。
「政宗様、髪型を変えたのですね。素敵ですわ」
「本当、とても若々しくなりましたね」
「褒められて嬉しいが、俺はまだ二十一歳だぞ。若々しいは、おかしいだろう」
「あらぁ、そうでしたわね。失礼致しました。それより、宴の後、私達とご一緒しませんか?」
「宴の後ねぇ、それは良いんだが、宴の主役がなぁ……いや、何でもない。しかし、後片付けが大変だろう?」
「政宗様、私達を労って下さるんですね。お優しいわぁ。でも大丈夫です。今日から入った下女が良く働く子で、全部任せるつもりですから」
「新しい下女かぁ。あんまりこき使うなよ。じゃあ、後でな」
政宗は、女達に別れを告げ、足早にその場を離れた。
『新しい下女』があつ姫とは知らずに。
その頃、
天主では、信長が光秀を呼び付けていた。
あつ姫を自ら探しに行きたかったのだが、それより先にやるべき事があったのだ。
信長は、頭を下げる光秀を見下ろしていた。
「光秀、貴様は、どの明智光秀だ?」
「……っ、お屋形様、それは一体どういう意味でしょうか? 某は、明智光秀ですが……」
光秀が言うが早いか、ヒュンと音が聞こえた。
信長が抜刀し、光秀の首寸前で太刀を止めていたのだ。
しかし、顔色一つ変えない光秀。
「お屋形様、お戯れを……」
「ふんっ、やはり未来に行った光秀か」
「……っ‼︎ それは……」
「あつ姫がこの時代に来た時から、気付いておった。貴様が以前の光秀と違うとな。だが、それは問題ではない。貴様は、あつ姫の護衛達を指揮せよ。如月は、御付きになっておるから、そこまでは手が回らん。良いな?」
「仰せの通りに……時にお屋形様、私も同じ問い掛けをしとうございます。……貴方様は、どの織田信長公でしょうか?」
「ふんっ、いずれ分かる。とにかくあつ姫を見つけ出せ」
信長は、光秀の問いには、あえて答えなかった。