第6章 それぞれの苦悩1
その後、如月達が安土城内を探すが、あつ姫は見つからなかった。
そうして、時が過ぎ、宴が始まろうとしていた。
その頃、
泣きながら寝てしまった私は、部屋が騒がしくなり目を覚ました。
部屋に居た女達は、ブルブルと身体を震わせていた。
「おばさん、どうかしたのか?」
「あっ! あんた、さっきの新入りだね! 今、信長様の命令だって言われて、みんな、荷物やら何やら、ひっくり返されたんだよ。探し物があるからってさぁ。怖かったよ」
「ふぅん。信長は、そんな酷い事するんだ」
「……‼︎ あんた! そんな事聞かれたら殺されるよ」
「姫……じゃなくて、私が信長を懲らしめてあげるよ。それより、おばさん、私、台所の手伝いに行って来るね」
「あんた、怖いもの知らずだね。私らは、腰が抜けちまったから、あんた、先に行っておくれ」
「相分かった! おばさんは休んでよ。おばさんの分まで働いて来る。じゃあね」
あつ姫が部屋を出て行った後、下女は、あつ姫の瞳が青い事に初めて気付いた。
「青い目なんて、初めて見たわ。布を頭から被ってたから気付かなかったけど、髪の色も変わってたわね。信長様以外で黒髪の子が居るなんて、びっくりだわ」
そんな下女の独り言が、部屋を出た私には聞こえたが、恐れられている訳ではなかったので、特に気にしなかった。
そうして、台所に付くと調理後の鍋などを洗う為に、外の井戸へ向かった。
「ウタゲって何かな? よく分かんないけど、こんなに大量の鍋を使ったって事は、人が大勢集まるんだなぁ。……それにしても、下女のおばさん達は、井戸が遠くて大変だ。これからは、姫が、力仕事をしてあげなくちゃ」
などと、今後のことを考えながら、ジャバジャバと鍋を洗い続けた。
時を同じくして、大広間には、大勢の家臣達が集まりつつあった。
だが、秀吉を始めとして、武将達の姿が、そこにはなかった。
そう、如月は、手段を選ばなかった。
忍びや護衛達を総動員したが、未だ見つけられず、あつ姫の顔を見た武将達にも、捜索を依頼していたのだ。
「クソッ、あの姫君は何処に隠れたんだ! 所詮は、甘やかされた我が儘な姫君か。全く!」
文句を言いながら、城内を探し回る秀吉。
だが、彼には思惑があった。
それは、あつ姫を先に見つけ、信長の怒りを解こうと考えていたのだった。