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夢幻の如く

第6章 それぞれの苦悩1


私の頭の中は、『邪魔な子』という言葉で一杯だった。
そして、元の時代に戻るまで、台所の下女として、身を潜めようと決めたのだった。

「おばさん、野菜、全部洗ったよ。次は何を手伝えば良いかな? 姫……じゃなくて、私、料理も出来るよ」

台所に戻り、次の指示を聞いたのだが、下女は、包丁を持つ事すら許されないからと、後片付けまで待つよう言われ、下女達が住む部屋に向かった。
そこは、城内の最奥にあり、長屋のような建物で、下男下女のみが住む場所だった。
とりあえず、教わった部屋に入ると、疲れ切った女達が休んでいた。
皆を起こさないようにと、部屋の隅にうずくまった。

「如月、心配してるかなぁ。でも、姫が居なくなれば、元の時代に帰ったと思うかな。姫は邪魔な子なのに、何でこの時代に来ちゃったんだろ。……みんなの迷惑になるから、見つからないようにしないと。……パパ……パパの娘で、ごめんなさい」

そうして、私は泣きながら眠りについた。

その頃、案の定、如月が安土城を走り回っていた。
彼女は、あつ姫が見つからず、忍びの護衛達に命じ、城内を隈なく捜索させていた。
そして、天主、信長の居室に向かった。

「信長様……あつ姫様が……」

如月は、緊急事態の為、無遠慮に居室に入ると、畳に擦り付けるくらいに頭を下げた。

「あつ姫が、どうした?」

書状に目を通していた信長は、鋭い目つきで如月を見た。

「お召替え用のお着物を、仕立て部屋に取りに行ったのですが、戻ったら、姫様のお姿がありませんでした」

「何だと……? 少し待て」

信長は、そう言うと目を瞑った。
あつ姫の気配を探そうと気を集中させるが、何かが邪魔をしていた。

「クソッ! あつ姫が泣いておる! 娘が泣くと俺でも探すのが難しい。如月、貴様は、護衛を全て使い、あつ姫を探し出せ。城内に微かな気配だけは感じる。手段は選ぶな。行けっ!」

「承知!」

短く返事をすると、如月は、天井裏に消えた。
そう彼女は、この時代では、あつ姫の御付き兼護衛だった。

如月が出て行った後、信長は、書状をグシャっと握り締めていた。
信長は、軍議の後、仕事が溜まっており、あつ姫に会いに行けなかったのだった。
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