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夢幻の如く

第6章 それぞれの苦悩1


「あっ! 台所の手伝いって言ってたな。場所が分かんないから、散策しながら行くか」

言われた事を思い出し、キョロキョロしながら廊下を歩き回った。
すると、女中達の噂話が聞こえてきた。

「ちょっと、聞いた? 信長様に姫君様がいたんだって! 家臣の方達は大騒ぎよ」

「ああそれで急遽、宴の準備をするよう言われたのね」

「そうそう。台所は、もう忙しくて大変らしいわよ」

「私、ちらっと聞いたんだけど、天主の三階のお部屋らしいわよ」

「あら、天主の三階は、信長様が御正室とその御子様達の為にご用意したお部屋よね?」

「そうだけど、信長様は、御正室も御子様もいらっしゃらないから、姫君様がお使いになっても問題ないわよ」

「まあねぇ、でも、信長様が御正室を迎えられたら、姫君様は邪魔だから、何処かに出されるはずだわよ」

「あらぁ、可哀想な姫君様ね〜」

私は、噂話を聞き、自分がいる所が安土城だと、やっと分かった。
そして、先程まで居た部屋は、信長の家族が住む場所であり、私の居場所ではないと悟った。
いたたまれなくなった私は、足早にその場を立ち去った。

「やっぱり、姫は邪魔な子なんだ。……どうしよう……出て行った方が良いのかな……」

噂話に落ち込み、とぼとぼ歩いていると、台所にたどり着いていた。
皆、かなり忙しくしているようだった。
そして、意を決した私は、さりげなく台所の手伝いを始めた。
すると、一人の女が話しかけてきた。

「あんた、新入りかい? 丁度良かったよ。忙しくてね。野菜を外の井戸で洗ってきておくれ」

「あっ、うん。分かった。これ全部?」

「そうだよ。かなり沢山あるからね。あっ、泥を綺麗に洗い流すんだよ。少しでも残ってたら、殺されるからね」

「うん。あっ、おばさん、後で住み込みの部屋を教えてね」

「下女の部屋だね。十五人部屋で狭いけど、まあ寝るだけだからね。じゃあ頼んだよ」

私は頷くと、野菜の入った桶を担ぎ、外の井戸へ向かった。
台所からは、かなり遠かったが、何往復もし、洗う野菜を運んだ。
外の井戸は人気のない場所にあり、考え事をするには丁度良かった。
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