• テキストサイズ

夢幻の如く

第6章 それぞれの苦悩1


信長は、大広間を出ようと歩き出していたのだが、襖に手をかけ振り向いていた。
焦った政宗は、腰を浮かした。

「今夜ですが、あつ姫様の為に、宴を催しては如何でしょうか?」

「宴とな……?」

顎に手をかけ、信長は少し考えた。
まだあつ姫の状態を見ていないが、夜までは時間がある。
だがいずれは、家臣達にも『信長の娘』だと周知させなければならない。
それなら早い方が良い。

「良かろう。宴であつ姫を皆に披露する。……秀吉は準備をしておけ」

「ははぁっ! 承知仕りました」

返事を聞かず、信長は大広間を後にした。


その頃。

如月は、着物を取りに行く為、あつ姫を残し、部屋を出ていた。

一人になった私は、襦袢姿では外に出る事も出来ず、苛々していた。
誰の部屋かは知らないが、衣装箪笥が沢山あり、少しの間、着物を借りようと箪笥を開けてみた。
だが、ほとんど何も入っておらず、仕方なく手当たり次第に探し始めた。
そして、一枚だけ着物を見つけたのだが、少し古びた物だった。
とりあえず着られれば良いと思い、手早く着替えると姿見を見た。

「うーん、似合わないなぁ。……髪も邪魔だし……」

着物の寸法は良かったのだが、私の長い髪には似合わない。
髪を無造作にまとめ、部屋にあった布で髪を隠した。

「よし、完璧に変装出来たな」

そうして、私は、部屋を抜け出し、探検をしに向かった。

ほとんど寝ていたので、建物の中がとても新鮮だった。
しかし、何か違和感を覚えた。
そう、誰にも会わないのだ。
不思議に思い、建物の中心にある階段を下り始めた。
その階段は、吹抜けを囲うようになっており、通常よりも段数がとても多かった。
下まで降りると通路を見つけ、どんどん歩いて行った。
そうして通路を抜けると、沢山の女中や男達が、忙しく動き回っていた。
しばらく、それを見ていると、一人の女が近寄って来た。

「ちょっと、この忙しい時に、何をボーっとしてるの! 早く床を拭きなさい。それが終わったら、台所の手伝いに行って!」

「相分かった!」

仕事を任された事が嬉しく、床の拭き掃除を始めた。
廊下が長いので、走り回りながら楽しく床を拭いていたのだが、もう磨く所が無くなり、また立ち尽くしていた。
/ 111ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp