第6章 それぞれの苦悩1
何故、この時代に来てしまったのか?
何故、織田信長が父親なのか?
何故、徳川家康は、私を知っていたのか?
何故、未来での側近である如月がいるのか?
何故? 何故? 何故?
私は、ずっと考えていた。
疑問が多過ぎる。
そして、最大の疑問は、己が何者なのかだ。
そう、私には、記憶が抜け落ちている部分があったのだ。
考えれば考えるほど、訳が分からなくなっていった。
同じ頃……
あつ姫が出て行った大広間では、皆が何故か緊張し膝の上で拳を握っていた。
その原因を作った本人は、口角を上げ、左手には短刀を持ち、それをクルクルと回し弄んでいる。
勿論、そんな状況に耐えられない秀吉が、口を開いた。
「お屋形様、その短刀ですが、如何されましたか?」
「ククッ、秀吉、気になるか……?」
短刀を弄ぶのは、言うまでもなく信長だ。
秀吉に問われても尚、短刀を弄ぶのを止めない。
すると、突然、短刀を鞘から抜いた。
「「「「「……っ‼︎」」」」」
信長の行動に驚き、皆の緊張が更に増した。
だが、信長は、徐ろに立ち上がると、己の髷をザクッと切り落とした。
「……っ! おっ、お屋形様、何をなさるんですかっ!」
秀吉は、驚きのあまり、その場で立ち上がった。
されど、信長は、彼を無視し、短刀で器用に髪を切り落としていく。
畳には信長の切った髪が散乱していた。
元々、伸びていた髪を無造作に結んでいただけであった為、それ程多くの髪を切った訳ではなかった。
民と一線を画す為、髪を伸ばし髷を結い上げるようにと、信長が命じ、皆も髪を伸ばしている最中だったのだが、それを本人自ら簡単に破ったのだ。
皆、空いた口が塞がらない。
髪を切り終わると、信長は、何事もなかったように上座に座った。
だが、秀吉は茫然として立ったままだ。
「ククッ、秀吉、いつまで立っておるのだ。言いたい事があるなら、早う言え」
そう言われても、何を言っても信長を怒らせるだけだと、秀吉は分かっている。
しかし、重い口を開いた。
「……お屋形様、何故……髷を切り落としたのでございますか……?」
その問いは、その場に集う者全員が聞きたい事だった。