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夢幻の如く

第6章 それぞれの苦悩1


片方の手を背中、もう片方の手を襖にかける如月。
すると、

「……っ、あ、あの……あつ姫様に、お、お粥をご、ご用意致しましたので、お、お持ち、す、するようにと……」

如月の声に恐れをなしたのか、襖の向こうから、女のか細い声が聞こえた。
しかし、如月の威嚇は止まらない。

「そうですか。そこへ置いてお下がりなさい。今後は許可がない限り、決して部屋に入る事は許しません。足を踏み入れれば、その足を切り落とします」

「ヒィッ……! た、大変申し訳ございませんでした。し、失礼致します」

顔も見えない相手を散々脅す如月に、私は呆れていた。

「あのさぁ如月、そんなに脅かす事ないのに。足を切り落とすなんて……」

「あつ姫様、今、どの様なお姿かお分かりですか?」

御膳を部屋の中に入れながら、如月は、眉間に皺を寄せていた。
何故そんな顔をと思い、私は己の姿を見た。
特に普通だ。
脇息にもたれながら、足を投げ出しているだけだ。
後は……

「真っ裸だけど……? 何か問題あるのか?」

更に大きな溜め息を吐いた如月。

「……全く、貴女というお方は……そのお綺麗な裸体を惜しげもなく晒してはいけません。恥じらいをお持ち下さいませ」

「恥じらいねぇ……裸くらい見られても、気にしないけど……」

足首に包帯を巻きながら、如月は思う。
小柄な身体なのに、豊満な胸と女らしい曲線のふっくらとした尻。また、艶めかしい程の白い肌。
美しいあつ姫の裸体を見れば、男達の反応が分かる。
この時代は、あつ姫にとって、かなり危険なのだ。
これからが大変だと、一人気合いを入れていた。
そして、あつ姫に軽く襦袢を羽織らせた。

「姫様、お召替えの前にお食事をお召し上がり下さい。この数日、お食事を召し上がっておられませんので」

「相分かった。……って、まさか、誰かが毒味をしたのか? 知らない者が作った膳を姫に出すとは珍しい」

「……っ、はい。護衛の者が毒味を……勝手をお許し下さい。まだここは信用出来ませんので」

「如月、毒味など二度とするな。私は、そんな事は望んでいない」

私は、私の為に誰かが苦しむ姿は見たくない。
だが、信長を始めとして、如月達は、私を守る為なら何でもするだろう。

間違って時を超えたせいで、多くの人を巻き込んでしまった事を私は悔やんだ。
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